第2話 仕組まれた異世界転移

「へぇ、エレナ、あの後学院を首席で卒業したのね」


 ロッテ姉さんが行方不明となったのは10年前。私が魔術学院に入学したての頃だ。そこで情報が止まっているのだろう。


「あんなに学校嫌がってたのに、大成したのね」


「まぁ、魔術の勉強って、ハマると意外に楽しくて……姉さんの方は? どこで何してたの?」


「話すと長くなるけど……」


「1日中かかっても聞きたい!」


 私はそんな無茶を申し出ていた。


「まず、10年前のあの日、私が森を歩いていたら、空中に黒い穴が空いていて、そこに吸い込まれた」


 あながち嘘とは思えない。何らかの魔術によるものだろうか?


「そしてそこを抜けると、見たこともないデザインの尖塔が建ち並んでいた」


 そう言って姉さんは一枚の絵を取り出した。確かに、銀色の塔がいくつも描かれている。下に写っているのは姉さんと、その仲間たちのようだ。仲良さそうに肩を組んでいる。

 

 それにしても、異常なまでに写実的な絵だ。


 それと、この世界にこんな景観の国があるなんて、聞いたこともない。


「この人たちは、お友達?」


「仕事仲間よ。まぁ、おそらく別世界に飛ばされたんだろうと思っていた。でも、本当に不思議なのはここからよ」


 異世界に飛ばされる以上に不思議なことなどあるのだろうか?


「私の、シャルロッテ・ダンヴェールとしての戸籍が、既に用意されていたの。お陰で、社会保障も就労も問題なく進んだ。これが何を意味するか、分かる?」


「召喚されたってこと?」


「そう。しかも私を迎え入れる事前準備をして、ピンポイントで呼び出した」


 だが、穴に吸い込むタイプの召喚魔法など、聞いたことがない。


 それに、こう言ってはなんだが、姉さんだけを呼び出す理由が分からない。召喚するなら戦闘力、権力、知力のいずれかが突出している人材を選ぶはずだ。


「とはいえ、私は期待外れだったようで、普通に働いていたんだけどね」


「そうなの……」


 しかしなぜ、異世界人が姉さんの名前まで知っていて、干渉できるのか?


「まさか、異世界と繋がっている?」


 私はそんな仮説を叫んでいた。


「そうみたい。10年向こうに住んで分かったのは、私らの文明では到底及ばないほどの産業文明があるってこと。このままだとこの世界……」


 姉さんは真剣な顔で続けた。


「植民地にされるわ」


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