第五話

「そうですね。あそこで二人で暮らす形になります。……嫌ですか?」

「い、いやっ! 別に嫌かどうかではなく、ちょっと気になっただけで」

「えー? とか言って、ちょっとは結婚した後のこととか想像したんじゃないのー?」

 菜々桜がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、こちらを見る。

 顔が勝手に赤くなっていく。決してそんなことは考えてないのに。

「も、もう寝る!!」

 逃げるように布団の中に潜り込む。くすくすと菜々桜が笑っている声がする。

 不意に、隣の布団で人の動く気配がした。

「私ももう寝ます。菜々桜、まだ起きているのであれば、最初の見張りをお願いします」

「おっ、なら俺も先に寝とくっす」

「しょうがないなー、先にやっといてあげる。まだ、舜様の話を聞きたいし」

「えっ! いや、ぼ、僕も……」

「さ、さ、舜様。あっちでお話しましょー」

 声色からして逃げ腰であろう烏丸を菜々桜が強引に部屋の外へ連れ出していく姿が想像できる。

 扉の閉まる音がして、やがて辺りは静まり返った。

 その静けさと慣れた気配を隣に感じ、安心した気持ちで横になっていたら、うつらうつらと眠気がやってくる。


 ◇◇◇◇


 愛しの彼女の隣で一緒に寝ようと思ったら、まさかの猫女護衛に部屋の外へ連れ出されてしまった。また、あの狼護衛に先を越された。

 ――――いや、もうすでに一緒にいる年数からして、先を越されているが……。

「ね、舜様。ご実家にはたまに帰っているの?」

「え?」

 どうやったらあの男に勝てるのか、つい考え込んでいて油断していた。一瞬、何を聞かれたのか分からなかった。

「だから、実家には帰ったりするの?」

「まぁ……、年に一、二回は」

「ふぅん、そう。お母様とかとは仲が良い?」

「悪くはない、と思うが?」

 随分とぞんざいな口調になってしまった。まぁ、護衛相手なら良いだろう。

 それにしても質問の意図が読めない。

 なぜ、実家のことを聞いてくるのか。彼女と何か関係がある……?

「あいつ……ああ、華のことね。あいつ、母親の愛をあまり知らないのよね」

「……それは、家出したことと関係するのか?」

 猫女は言うかどうか迷っているようで、目を彷徨わせる。だが、やがて意を決した表情で口を開いた。

「あいつの母親、男に寝取られて、その上命まで奪われてるの。……だから、結婚に抵抗があるのかも」

「男への不信感か……」

「そう。ゆーくんや冬夜は小さい頃からずっとあいつの傍にいるし、裏切らない絶対的信頼があるけど、他の男に対してはどうも一歩引いてるところがある」

「ならば、まずは彼女の信頼を得ることが先決だと?」

 だんだん、猫女の意図が読めてきたかもしれない。






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鬼姫は烏天狗の末裔に求愛されまくって、困ってます!? 玉瀬 羽依 @mayrin0120

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