私は自分の足で歩き始める

星之瞳

第1話

「さようなら」私は仏壇に一礼すると家の鍵を閉めタクシーに乗った。後からは引っ越しのトラックがついてくる。行先は私の生家。主人と離婚するため30年ほど暮らした嫁ぎ先を出た。

私と主人は見合い結婚。結婚当初から義父母と同居の上、元家。兄弟親戚も多く何かの行事があると大忙しでこき使われた。

でも、義父母が在命中はまだよかった。義父母が鬼籍に入り主人が家を継いでからは私一人に法事や親せきの世話がのしかかり、10年後私は一生治らない持病を持ってしまった。

旦那は私を家政婦としか見ていない。子供の世話も一切しない。親が甘やかしていたせいで身の回りのこともしないし、出来ない。そして気に入らないことがあると「出ていけ!」というのが常とう句。確かにこの家は主人の名義だし、私は我慢するしかなかった。

転機は突然やってきた。わたしの父が亡くなり、実家と多額の現金を残してくれたのだ。家とお金があればこの家を出ても暮らしていける。私はそう思い少しずつ私の家となった実家を整備し、必要なものを運び込んだ。

そして今日、離婚に応じなかった主人を捨て、家を出たのだ。


でもこれはスタートに過ぎない。生活が落ち着いた私は弁護士に相談に出かけた。

「あなたはどうしたいんですか?」と弁護士に聞かれ、

「離婚したいです、離婚出来れば何もいりません」

「そうですか、でも、お話からすると財産分与、年金分割の請求はできますよ。30年も頑張ってきたんですから当然の権利です。それと、まずご主人と協議離婚の話をします。それが決裂した場合家庭裁判所に調停を申し立てます。必ず離婚できるようにしますから、私に任せていただけませんか」

「おっしゃる通りにします、お願いします」こうして私は手付金を払い弁護を依頼した。弁護士を立ててよかったのは相手との交渉を直接しなくていいこと。もう声も聞きたくないし会いたくないそれが本音だった。


2週間ほど経って弁護士から連絡があった。

『ご主人に内容証明郵便を出し、電話で話をしました。協議離婚には応じないそうです、調停離婚を行いますか?』

「お願いします、絶対離婚したいです、でも、録音とか証拠がないで大丈夫でしょうか?」

『お任せ下さい、あなたが入院、手術したときに手術に立ち会わず見舞いにも来なったこと。義理のお父様の葬儀に出席しなかったこと。それと警察沙汰を起こしたこと。これだけで十分ですよ。調停離婚の契約をしないといけないので一度事務所にいらして下さい』

「解りました、明日伺います」

翌日私は弁護士事務所を訪れ契約書に署名。手付金を払った。


弁護士はさっそく書類を作成し、2週間ほどで家庭裁判所に調停離婚の提訴を行った。


だが実際に調停が始まるには2か月ぐらいかかる。その間は待つしかない。

ただ、主人の方も弁護士を雇ったようだという話を聞いた。


2か月後第一回調停の日、弁護士が全部代行する。夕方弁護士から電話がかかってきた。

『〇月〇日に、あなたと家庭裁判所で話をしたいと調停員が言っています。その話の中であなたの意思を確認できれば調停を結審すると。安心してください、こちらの意向はすべて通りましたから。勝ちましたよ』

「解りました指定された時間に家庭裁判所に行きます。ありがとうございました」

私は電話を切り、指定された日にすべて終わると安堵した。


指定された日、私は家庭裁判所に赴いた。しばらくすると弁護士がやってきて控室に連れて行った。

「相手と会わないようにしてもらえるそうです」

暫く待たされたが、調停員の人が迎えに来た。私は弁護士と調停室に向かった。

そこで名前を確認され、いろいろと質問を受けた。私はしっかりと答えた。

「それでは相手側の話を聞きますから控室でお待ちください」そういわれ私は弁護士と控室に戻った。控室に戻って

「あの、私変なこと言いませんでした?」と聞くと、

「大丈夫ですよ、しっかりとした受け答えでした」と言われたので安心した。

暫く待っていたらまた呼ばれた。

調停室に入ると

「相手方の確認も取れました。これより結審し、調停判決文の説明に入ります」

先ほどとは違う人が数名来ていた。一人が判決文を読み上げ、どういう意味か説明した。私はほとんど自分の意向が通ったのが解った。

読み上げが終わると、読み上げていた人は出て行った。弁護士が何やら話をしている。

「3日ほどで書類ができるそうです。出来たら連絡しますので、事務所に来てください、離婚の手続きをしましょう」

「解りました、ありがとうございました」私はそう言ってその日は別れた。


4日後弁護士事務所を訪れた私は離婚届を記入。調停離婚なので相手の欄も自分で書いた。そして調停の書類と伴に市役所に提出。

届は受理され、私は主人と離婚、旧姓に戻り自由の身となった。


さあ、これからまだ30年ほど時間がある。今日が新しい人生のスタート。これからは自分のために生きるんだ。

私は希望に胸を膨らませた。 





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