第28話 信じちゃだめ。負けちゃだめ。
ふっ、ふうっ、ふっ……!
冴え冴えとした月の明りを浴びながら、イヅノは駆けていた。
常人とは比べものにならないほど鍛えた身体であり、山の荒れた道などものともしないはずだ。普段であれば散歩くらいの運動に過ぎないのに……その表情はいつになく険しい。
誰もいない一人きりで、イヅノは己の肩を強く抱きしめる。しかし、いくらそうしても、ぶるぶると震えてしまうのは止められないようだった。
「ああ……っ!」
そう漏らした声に悔しさがにじみ出る。
もう一度「ああ」と嗚咽混じりの声を漏らして、彼女は枯れ葉だらけの山でしゃがみこんだ。
勝てない。
ひと目で分かった。
あの怪物に私は勝てない。
むしゃむしゃ食われるのを容易く想像できたし、彼がかばってくれなければ恐らくは逃走することも許されなかった。
離れ離れとなってしまったが、彼はまだ無事だろうか。分からない。ただ冴え冴えとした月明かりしかイヅノには見えなかった。
「前と……同じだ……」
悔しさで一歩も前に進めなくなったとき、ずっと前にも味わったことをふと思い返す。それは彼女が一人きりで生きてきた理由でもあった。
『足があるんだ。逃げりゃあいい』
彼女の脳裏に浮かぶのは、かつて肩を並べて歩いたオーク族の言葉だ。たくましい肉体をしており、青々とした葉のような肌の色でもあった。
かつては傲慢な雄であったようだが、年老いてゆくうちに丸くなり、非力な雌であるイヅノにとっては数少ないまともに接することのできる相手だったろう。
他のオークたちと違い、流ちょうに話すその雄の言葉に、イヅノは顔をしかめる。
『なぜですか。人間との闘いで、仲間たちの数は減る一方です。上位種である私までもが逃げたら他の者は死にます』
そう真面目に答えたのだが、彼はグフフとくぐもった声で笑う。
『へっ、おかしな奴だ。雌のくせにがんこだし義理深い。いや、それが普通なのかもな。この世界に入り込んでからというもの、俺はずぅっと人を殺し尽くしたいという欲が消えねえ。それこそ気持ち悪いくらいにさ』
それはイヅノも分かっていた。この見知らぬ土地に入り込んでからというもの、仲間たちは凶暴さをどんどん増しており、まともに話せる者さえほとんどいなくなってしまった。
そんな仲間たちをじっと眺めて、大きな雄はしみじみとした声でこう言う。
『だけど、お前は平気だ。いつも冷静だし、あの途方もない殺戮の渦にも呑み込まれない。気づかないかもしれないが、それはすごいことなんだぞ』
なにも答えられないイヅノの前で、彼はゆっくりと夜空を見上げる。するとバババババーッという騒々しい音と共に、目を開けられないほどの光が降り注いだ。
あの空からの監視は、ヘリコプターなるものだと聞いたことがある。人間族は地上だけでなく、空まで制するようになってしまった。もしかしたら海でさえ同じかもしれない。
たくさんの葉が舞い、ギャッギャッと興奮する仲間たちが吠えたてるなか、彼は平然とした声でまた言う。
『なぜこの世界に来たのかはついに分からなかったが、俺たちとは違うお前が、なにかを生み出せる気がしてたまらねえんだ。ただの勘違いかもしんねえけどさ』
がちんと金属製の覆いをつけたとき、彼の目は戦士のそれに変わる。殺戮を求めるように赤く染まり、そのたくましい腕で武骨なこん棒を握りしめた。
『どこかに行け。そしてなにかを生み出せ。なんでもいい。楽しいものでも、苦しいものでもいいから、この世界に来た俺たちの痕跡を残してくれ』
淡々とした声であったが、胸に深々と突き刺さるほどの力強さを覚える。だからイヅノは逡巡する間も見せず、タッとその場を駆けだした。逃げ出してしまった。
どうしてなのだろう。なぜなのだろう。風の音もしないとても静かな夜に、彼女はまた一人きりとなってしまった。
「なにかとは、なんだろうか……」
まばゆいほどの月を見上げて、彼女は誰にでもなくそう言う。オーク族の言葉に深い意味はなく、ただの気まぐれで彼らはイヅノを逃がしたのかもしれない。
しかし、彼らの顔が、声が、胸の奥にまで深々と突き刺さる。逃げてくれと言った彼は、優しく笑いかけてきたのだ。
出会ったばかりのころは、そうじゃなかった。
もっと傲慢で、もっと独りよがりで、イヅノのことなど信用していなかった。なのに、どうしてあそこまで優しくなったのだろうか。
ぼろろっと大量の涙がこぼれ落ちる。湖でキャンプをしたことや、除夜の鐘を突きにいったことをつい思い出してしまったせいだ。
なにかとは、なんだろう。
逃げるだけで得るものが本当にあるのだろうか。
そう考えていたイヅノの背後から、唐突に女性の声が投げかけられた。
「逃げおおせたようね。あなた、帰り道は分かる?」
ハッとして振り返ると、闇夜に溶けてしまいそうな色の髪とスーツが見えた。
刀を背負い、荒れた山道なのにビジネスシューズで危なげなく歩く。冷たい夜空のような瞳をくるっと向けてきた。
「舞鶴、さん?」
「だいぶクセのある魔物のようだし、なにかあるかなと思って様子を見ていたところよ。別に後をつけたわけじゃないから」
華奢な首筋に浮いた汗をごしりと撫でて、彼女はそう言う。そして墨で塗りつぶしたように真っ黒い不気味な山を見下ろした。
「どうする、私と交代する?」
「交代って……別々に彼も逃げているはずです」
そう言ったのだが、なぜか舞鶴はクスリと笑う。
「逃げる? まさか、そんなわけないでしょう。この山に入ってきた魔物を、国東君が許すはずがないわ。ほら、見なさい」
――ずどおッ!
唐突な爆音、視界を紫色に染める炎、そして紙屑のように吹き飛ぶ木々を見たイヅノの目は見開かれる。
死んだ。死んだのだろうか。
彼はあの森のなかで吹き飛んだのだろうか。
嫌な汗を全身に流してそう考えていたときに、再び爆炎が森に轟いた。
――ずどッ! ずどッ! ずどおッ!!
立て続けに起こる爆炎にはそれぞれ距離があり、まるで彼を追っているように次々と撒き散らされる。
まだ死んでいない。そして尚も続く爆炎からは、あの化けものの苛立ちさえどこか感じ取れる。ちょこまかと逃げているのか、ときおり猟銃の音がバンバンと響くのだ。
「戦っている。まさか、あの化けものと……」
そうつぶやくイヅノの声に、振り向いた舞鶴の顔つきはどこか誇らしげだ。そして朱色に塗られた唇をそっと開く。
「ね、男の矜持っていうのは信じちゃだめ。かっこつけたがりの男なんかに負けちゃだめ。嫌だったら代わるけど、本気でなにかを得たいのなら……戦いなさい」
その囁き声はまるで熱い風のようだった。
なにかを得たい。私だけのものにしたい。交代なんてしない。彼は絶対に渡さない。そういった欲が強烈なまでに沸き上がり、ゴウと炎が灯るのだ。
その表情を見て悟ったのだろうか、いつも表情を見せない舞鶴にしては珍しくにこりと笑いかけてきた。
「いいことを教えてあげる。彼のタイプは強い女性よ。戦って、あの化けものの首を落として、あなたがいないと生きていけないくらい存分に魅せてやりなさい」
返事はしない。いや、できない。ずっと前から探していたものがそこにある気がしてならず、駆けだした足がドッと山の土を飛ばす。
長柄の斧を握りしめ、そして斜面の下へと迷わずイヅノは飛び降りた。
あとに残された舞鶴がその場でしゃがみこみ、ハーと溜息を吐いたことは誰も知らない。
どっこらしょと俺は木の枝に腰掛ける。
そして胸ポケットからくしゃくしゃの煙草を取り出して、ぷかあっと白い煙を浮かべる。
えー、もう夜中の三時です。眠いですね、はい。
化けものに追われているし、ギャオオと恐ろしい声で鳴いている。こんな見晴らしのいい木の上で、のんびりしている場合じゃないよねぇ。
そんな場合じゃないが……、ちょっとひと息しないとしんどいわ。お腹もすいたしチョコレート食べちゃお。うーん、甘くて美味しい。
ぺろっと親指を舐めて、俺は森の様子をうかがった。
状況はかんばしくない。
罠に誘い込んだが、あそこまでのデカブツは想定していなかったので、ただの嫌がらせにしかならないんだわ。丸太があちこち転がっているし、電気柵なんて簡単に踏みつぶされちまった。クソー、高かったのに。
などとボヤきつつ、俺は上下二連装式の散弾銃をじっと見る。
一番の問題はこれだ。オリンピックなどで使われるライフル銃と比べて、俺の所有する散弾銃は射程がかなり狭い。
ライフル弾を打てるようになるのは、悲しいことに10年もの修行をしなければ狩猟協会から認められないんだよね。あと9年と半年くらいがんばろうぜ、俺。
「……しょうがない。近接戦に持ち込むか」
トッと地面に降り立ちながらそうつぶやく。
近接戦といってもあれだぞ、殴ったり蹴ったりするわけじゃなくて、相手を常に50メートル以内に置くというものだ。
なので向こうが俺に気づいても慌てないし、ズズズと地鳴りのような音を立てて近づいてきても動かない。
極彩色な紫色を生じさせる化けものが目の前まで迫り、にたりと笑いかけられてきても動じない。だって俺は男の子だしさ、こんな相手にビビってちゃだめでしょ。現代のまたぎを舐めんじゃねーよ。
そして魔物は、己の腕を振りかぶる。
――ドンッッッ!!
うわおっ、巨大なこぶしを地面に叩きつけられただけで身体が浮いたんだが?
人型まで成長していやがる魔物の恐ろしさに驚愕しつつ、すぐさま背後に鉈を振り、カンッと木に食い込ませる。そこを足場にして、真紫色の光源から目を離すことなく俺は横っ飛びした。
こぶしを開いて払いのけるというごく単純な動き。ただそれだけで樹木が破壊されてゆく。無数の土や木片が舞うなかで、脚を開いてかがんでいた俺は「へっ」と笑う。笑うっきゃない。
デカブツだからスローモーションを見ている気分だ。
あれに立ち向かうなどと馬鹿げたことをしているし、これから常に50メートル以内で戦うなんて正気じゃない。本能からはそっと「だから言ったのに」と呆れるように囁かれた。
まあまあ、いいんだ、戦うと決断したのは俺だしさ、だったら死なないように全力で尽くせよ、俺の本能。
そして一瞬だけ思い出すのは、あのオーク族の娘のことだった。
だつの上がらない男にさっさと見切りをつけて、山を駆け下りているころだろうか。それとも泣きそうな顔で遠くから見守っているのだろうか。
分からない。分からないが、へっと笑いながら俺はごく自然と引き金を絞っていた。
――ズッ、ドドオンッ!
この上下二連装式の狩猟銃は傑作だといわれている。剛性が高く、愛用者は「1万発撃っても壊れない」と豪語する。
まるで蛍光色のゼリーにストローをブッ刺したようだった。俺の期待に応えて、弾道はそのまま疵となる。ズドッと真上に向けてさらにもう一発だけ撃ち抜くと、軽いアッパーを食らったようにデカブツは仰け反った。
――ギッ、オオオオオオオオッ!!
バンッ! バンッ! バンッ! と真上から叩きつけてくる手のひらは凶悪で、最悪で、俺にとってはたまったもんじゃない。だけどね、えへへ、いまのあいだにポポンッと弾を抜いて、装填しちゃった。我ながらすごい芸当じゃね?
うなじをヂリヂリ焼かれるような焦燥感のなか、真横から迫りくる巨大な尾をじっと見つめる。
木々を粉砕して迫るあれを止める手段も、かわす方法もない。だけどどうしてかな。なぜか俺は大丈夫な気がしたんだ。
最初に見えたのはとても長い脚だった。
次に三日月形の斧が見えて、それはぎゅんぎゅんと回転しつつ、ずどんうッと真上から尾に叩きつける。はじけ飛ぶ鱗がまるでガラスのようだなと思いつつ、ごく自然と俺は引き金に指をかけていた。
イヅノだ。
あいつが来た。
なんだかそれだけで俺は泣きそうだったけどさ、勇気ある美女への拍手がわりにバンバンと俺は狩猟ライフルを鳴らす。
貫通力の優れたスラッグ弾とはいえ、あの目玉以外には当てても意味がない。相手もそれに気づいただろう。でっかい手で俺の射線を切られてしまったが、ゆらりと長い髪の尾を引いて、イヅノが俺の前に躍り出た。
こんなにも美しい背中を、俺は見たことがない。
鍛え抜かれた身体には美が詰まっており、多量の汗と共に放たれた一撃が化けものの手を半ばまで断つ。
ドンッと吐き出したスラグ弾は長い黒髪のあいだをすり抜けて、その傷跡の向こうから地鳴りのような絶叫が響く。
なぜかイヅノは、俺が絶対に誤射しないと確信しているようであり、それが果てしなく嬉しい。ぜってーに当てねえしさ。
またも長柄の斧に多大なる遠心力を与えて、ぎゅんぎゅんぎゅんと加速しだした。
飛び込み、あの目玉を十字に切り裂いてみせたのは芸術的だと思ったし、イヅノと入れ替わるようにして、トッとそいつの顎に飛び乗った俺も大したもんだと思うよ? これでうまいこと惚れ直してくれねえもんかなあ!
――ズドッ、ズドオッ! チャチャッ、ズドズドォンッッ!
見た? いまの神業のような弾込め。
などと考える間もなく、周囲は真紫色に染まる。ズドシッと音を立てて、見ればそいつの頸動脈が分断されていた。
おっほお、すっげえ! イヅノの全身を使った横薙ぎ一閃! 気ンもちいい――っ!
彼女をより活き活きさせることが俺の仕事だ。恐れを呑み込み、立ち向かう彼女の背を押さなければならない。
だから化けものの顔から俺は降りなかったし、気持ち悪いそいつの舌を脇にかかえて、ズドズドと撃つ。はははと笑いもした。この場で俺が最も危険なのだと教えるために。
その甲斐あって、化けものは俺に手を伸ばし、万力のような力で握りつぶそうとしてきた。秒も立たずに全身破裂を起こすだろう。
――ずドシッ!
しかし、すぐさま腕の健を断ち切ったイヅノはノリノリだ。
大人でも持ち上げるのがやっとであろう長柄の斧を振り回しており、その横顔はどこか恍惚としている。
ほうと熱っぽい息を吐き、即座にぎゅっぎゅっと回転しだすのを俺は見た。まばたきもせず。そして唇の端を俺は歪めてこう言う。
「そら、化けもの、死神がお前の肩で踊ってんぞ」
健が断たれて、だらっと腕の力が弱まった魔物は、すぐさま隣にいる女へと視線を移す。だけど気づくのが遅かった。なぜならば反対側の頸動脈までドシッと断ち、全身を使った遠心力を余すことなくまた叩きつけてくるからだ。
二度、三度と同じところを断たれて、多量の血らしき紫色のものが辺り一面に飛び散ってゆく。
へっ、やっちまえよ、オークのお嬢さん。
我ながら気持ち悪いほど目玉を輝かせつつ、俺は素早くポーチから弾を取り出した。
バララララ……。
白けた空の下に、雷雲のような音が響く。
きっと彼らは山の斜面に横たわる巨大生物を撮影しているのだろう。テレビ局のロゴが入ったヘリコプターを、俺はちらりと眺めた。
「あー、はい、はい、無事です。ケガもありません。これから現場に人を送ってくださ……え? そういうサービスはやってない? 証拠写真だけでいい? あー、はあ、構いませんけど、審査のとき面倒なんスよねぇ」
無事に朝を迎えることができたので、俺は役所の人に連絡した。
とはいえお役所対応というか、塩対応というか、普通の人だったら悲しむだろうことを言われてしまい、仕方ないから小さいほうは5体じゃなくて8体ほど倒したと伝えておいた。
おひょひょひょ、よんひゃくまんえんですよ、奥さん! たったのひと晩で! おまけにでかいほうは査定中だし、ひょっとしたら家が建つくらい儲かるかもしれん!!
笑いが止まりまへんなぁと思いつつスマホを切ると、それを待っていたようにイヅノがすっくと立ち上がった。
「終わりましたか?」
「ああ、ばっちりだ。あとは帳簿をつけたり、書類提出したりするくらいかな。まったくボロい商売だ」
寒くないのかなと思う格好で、イヅノはじいと俺を見つめてくる。
血濡れた斧は布で包まれており、まだ周囲にはタールのような血のキツい匂いが立ち込めているのだが、しかしそれにしてはススッと寄ってきたイヅノの距離が妙に近い。
ひと仕事やり終えたあとだというのに目が据わっており、気づいたら木陰に背をどんと突くことになる。そしてだんだん近づいてくる美しい顔に、俺は少しばかり慌てた。
「あ、イヅノちゃん? 魔物を倒したらハイになっちゃうんだっけ? でもほら、見えるでしょ。今はヘリに撮影されているし、そんなことしてる場合じゃな……」
あえなく俺の静止の声はふさがれてしまい、熱い抱擁などという表現では生ぬるいほどの愛を伝えられてしまった。
彼女だけが持つオーク族としての昂ぶりは三日三晩ほど続き、そのぶん書類提出の日が伸びたのは……まあ、ぎりぎり笑い話に入るのかな。うん。
ふわりとした暖かな陽気はいつぶりだろう。
長い長い冬を越えると、景色はどこか明るさを増して、綺麗な花びらが風に舞う。
それにたおやかな腕を伸ばすのは、まだうら若い女性である。
健康的に焼けた肌はたいそう魅力的で、道ゆく者たちから自然と視線を集める。
しかしそのようなことを気にもせず、彼女はじっとこちらを見つめて、それから愛らしく笑いかけてきた。
「春というのは明るくて楽しくなる季節ですね」
「ああ、一番いい季節だ」
ほとんどの畑地は荒れ果ててしまったけれど、この河原沿いの桜並木はきちんと手入れしている。
それはガキのころに好きな景色だったからであり、消え果ていくのを寂しいと感じたからでもある。
彼女は目にもまぶしい赤色の着物に袖を通している。彼女の瞳と同じ色であり、やはり幾度となく目で追ってしまうほど魅力的でもあった。
いそいそと姿見の鏡の前で着ている姿も見飽きない。だからそれに合わせてやろうと思って、からんと下駄を鳴らしながら俺は歩く。こうして着てみると和服というのも悪くないもんだ。
「私、きゅっと帯を締めるのが好きなのです。身が引き締まるような気がして」
花をあしらった髪飾りも似合っているし、さっきから自分の口数が少ないことも気づいていたが、俺はこくんとうなずくことしかできなかった。
「見てください。今日は地元の人たちが来てくれましたね」
「うん、それは良かった。わざわざ手入れした甲斐がある。今年もがんばろうかな」
「そうしましょう! 私も全力でお手伝いしますので!」
近くにパトカーが停まっているのは、役所の「今日だけ特別」という許可によるものだろう。
先日お世話になった呉服屋さんがご家族と一緒に食事しているのを見て、まあその程度の手間でいいのならお安い御用だとひとりごちる。
空は綺麗に晴れ渡り、今日ばかりはお役所に感謝する俺であった。
そっと寄り添ってくれるイヅノと共に、春の風物詩である桜並木をたっぷり味わうとしよう。
ひらひら舞い落ちる桜を眺めて、そのように俺は考えた。
―― オークの雌 END ――
最期までお読みくださりありがとうございました。
カクヨムコンに応募しておりますので、面白いようであればご評価くださいませ。
オークの雌~田舎でまったり魔物狩猟していた俺に他種族交配◎なオーク族の嫁が来た~ まきしま鈴木@アニメ化決定 @maki4mas
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます