ゆるく始まる、わたしたち。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

はじまりは、スローペースで。

柚葉ユズハ、友だちになって」


 気軽な言葉で、わたしたちの関係は始まった。

 銀髪ロリ少女との、シェアハウス生活が。



 高校入学前後に両親が立て続けで亡くなり、わたしは維持できなくなった家を手放す。

 そもそも、田舎の家ってデカすぎるのだ。

 すべて親戚に管理してもらい、わたしは一人暮らしの準備を進めていた。

 親戚はいい人だが、みんなご自身の家庭持ち。なので、迷惑をかけられない。

  

 行き場を失ったわたしに声をかけてきたのが、銀髪少女の神奈月カンナヅキ 黎斗レイトである。


「来てくれる?」


 放課後、わたしは黎斗に家まで連れて行かれた。

 

 両親が一人暮らしをさせてくれたのだが、困った事情ができたらしい。


 なんだろう? クラス一の秀才を悩ませるできごととは。


 黎斗はわたしを、快く家へと受け入れてくれた。


 外観もでかいが、中身はさらにすごい。リビングだけでも、そうとう広いぞ。

 引っ越してきたばかりと言えど、いくらなんでも荷物がなさすぎる。黎斗は、ミニマリストなんだろうか。


「気をつけて」


 かなり警戒気味に、黎斗は物陰に隠れる。


「どうしたの? ここが、ワケあり物件とか?」

 

「そんな生易しいことじゃない」


 マジで? 

 わたし、霊感なんてないぞ。幽霊なんて、祓えないし。


「あれ」


 黎斗が、台所を指差した。


 キッチンでよく見かける。例の茶色い物体を。


「ああ、Gに触れない系?」


「虫全般がムリ」


 元々が海外の都会っ子なので、虫が大量に湧く田舎のマンションに馴染めないそうだ。

 

 虫を追い出せなくて困っていたのである。


「よっしゃ、まかせて」



 わたしは、新品のノートをくるくると丸めた。新聞紙でもいいが、黎斗の家では取っていないみたいだし。


「そりゃ」


 二秒もかからず、わたしはチャバネを仕留める。


「終わった?」


「うん」


 ティッシュに包んで、トイレに流す。


「家の中でも虫がダメだなんて、意外」


 黎斗の見た目からして、虫なんかはスプレーでシューってやってしまえそうだが。


「スプレーでシューまでは、多分できる」


 しかし、捨てるために触ることまでは、できないそうだ。

 


「夜は夜で、カエルの鳴き声がうるさい。ここは立地も良くて、静かな場所だって聞いていたのに」


 たしかにここの裏は池になっていて、カエルがゲコゲコとわめく。

 わたしからすれば、心地いいんだけど。

 

「あはは」


「やっぱり、変だろうか?」


「違う違う。ゴメンゴメン。バカにしてるわけじゃないから。ただ、意外性があってかわいいなと」


「頼りないだけなんじゃ」


「とんでもない。優等生の神奈月 黎斗に、こんな一面があったって知れただけで、満足」


「そう」


「どうして、わたしに頼んだの?」


「自己紹介のとき」


 ああ、あのときか。


 両親を亡くして落ち込みながらの、自己紹介。

 わたしは足元に近づいてきたGを、思い切り踏み潰してこういった。


武藤ムトウ 柚葉ユズハ。 虫は平気です」と。


 クラスメイトは、ドン引き。誰も友だちとして呼びかけてくれない。


 しかし黎斗には、響いたようである。


「あれで確信した。シェアハウスするなら、この人だと」


「シェアハウスがしたいの?」


「こんな広い家、一人だと持て余す」

 

「だろうね」


 黎斗の両親は、海外にある実家を継ぐという。

 日本に残りたいという黎斗に、彼女の両親は何不自由ないジャパニーズライフを提供したそうだ。

 しかし、どうにも広すぎる。


 おまけに、彼女はおそらくミニマリストだ。大きな家をもらっても、大の字に寝るくらいにしか活用できないだろう。


「わたしの私物、全部持ってきてもいい?」


「それでも、部屋の空間があまるほどには広い」


「じゃあ、よろしくね神奈月さん」


「黎斗でいい。一緒に住むんだから。私も、柚葉と呼ぶ」

 

「わかった。虫は平気だよ、黎斗」


 こうして、わたしは銀髪少女・黎斗の虫よけとなった。

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