第5話 町の外は危険がいっぱい。

 琴音は治癒魔法のスキルを授かったらしい。治癒魔法は転移者以外も使えるけど、転移者のスキルは成長すれば桁違いの能力を発揮しやすいらしい。

 教会勢力から「是非とも聖女になってくれ!」と誘われた琴音だけど、自分の意思で生きていきたいという思いから断ったそうだ。

 攻撃系の魔法も使えるらしいが、近接戦闘もできた方が良いだろう、とダンジョンで魔物相手に一緒に特訓した。

 宿屋が一軒しかなくて、寝泊まりするのは相部屋だったから最初は緊張したし、お互い警戒していたけど一週間も過ごせばだいぶ打ち解けてきた。

 今では名前で呼び合う仲になっている。


「もう行ってしまうんですね」

「『始まりの迷宮』は踏破しましたから」


 冒険者ギルドに顔を出してグロリアーナさんに別れを告げる。

 つい先日、ダンジョンの最奥でボスを倒し、ある程度の準備も整ったからと琴音とスタートアップタウンを出る事にした。


「気を付けてくださいね。同じ転移者のユウキさんは亡くなったそうですから。いくら強力な力を授かっていても、死ぬときは死にます」

「分かってます」


 戦闘系のスキルを授かっていない俺だったら余計にそうだろう。

 細心の注意を払って、危険に近寄らないようにしよう。

 天使様はこの町から出て行けというから、とりあえず次の町にいくけど、そこで生涯過ごすのが一番安全かもしれない。




 お世話になった方々に挨拶を済ませ、集合場所に着くと、琴音が申し訳なさそうに眉を下げながら立っていた。


「慎、ごめん。一緒に連れてって欲しいって人たちがいるんだけど……」


 琴音の後ろには見慣れない商人たちがいる。

 こっちに来てからいろんな商人と相部屋になったが、ここまで人数の多い商隊は初めてだ。


「この商隊のまとめ役をしているガスタと申します。以後、お見知りおきを」


 小太りの男はそう言いながらも俺の事をじろじろと見てきた。商人の性だ、なんて事を言って謝っているけど、なんだか怪しい。

 ガスタさん曰く、「大勢で移動した方が襲われ辛いんですよ」との事だ。一理あるな、と思い次の町までならと承諾した。

 断ってもどうせ後をついて来るだろうし、それなら利用させてもらおう。




 スタートアップタウンを出発した翌日の事だ。

 食事を提供すると言われたけどそれは固辞し、一定の距離を保って関わっていたけど認識が甘かったようだ。

 急に琴音が地面に倒れた。


「おい、大丈夫か!?」


 慌てて彼女に駆け寄った際に、チクッと首元に何かが刺さった感じがして、振り向くと一緒に行動していた商人たちがギョッと俺を見てきた。


「おかしいですね。ちゃんとシビシビフロッグの麻痺液は塗ったんですか? ケチってないですか?」

「ケチってるわけねぇだろ!」

「刺さっているようですし、耐性持ちですか」


 相手が話をしている間に琴音の状態を確認すると、彼女は痙攣しつつも意識はあるようだ。視線だけこちらに向けてきた。

 彼女を担いで全力で走ればスタートアップタウンにはすぐに帰れるか?

 ここら辺に出てくる魔物は低ランクばかりだったし、庇いながら逃げるのはできるだろう。

 相手が責任の押し付け合いをしている間にさっさと逃げてしまおうか。

 そう思ったけど、数人が襲い掛かってきた。吹き矢も飛んでくる。

 飛んでくる針を木剣で叩き落し、迫ってくる者たちを背中に背負っていた槍で薙ぎ払う。


「ギャーーッ」


 人が簡単に吹っ飛んでいった。てっきり戦闘能力がある奴らかと思ったけどそうでもないようだ。

 力量差を悟ったのか、慌てた様子で逃げ出すガスタたちを放っておいて、俺はスタートアップタウンに急いで戻った。

 スライムでレベリングをし続けたおかげか、琴音をお姫様抱っこで抱えながら全力で走り続けても問題はなかった。




「転移者狩りの事を注意喚起しておくべきでしたね。申し訳ございません」


 そう言いながら頭を下げたグロリアーナさんから解毒剤を貰って琴音に飲ませると彼女は元通りになった。

 ただ、今回の事を踏まえるとやっぱり外は危険だという事がよく分かった。

 情報漏洩されたとしても、まずはここで基礎作りをしっかりするべきだろう。

 だから、今日も俺は始まりの町スタートアップタウンを出ない。

 この世界では何が起きても不思議ではないのだから。

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慎重な俺は始まりの町から今日も出ません みやま たつむ @miyama_tatumu

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