音と色と。
亥之子餅。
音と色と。
冬の宵闇を
その響きは、薄雲がかった
そんな鐘の音も、108回目の輪郭を失った頃のことだ。
この夜に不釣り合いなほど、
先刻買ったばかりのコーヒー缶で凍えた手を温めながら、駐車場で訳もなく空を仰いだのだが、思いのほか夜空というものは漆黒ではないことに気付いたのだった。混じり気の無い黒ではなく、どこか濃紺に近い色。私にはそれが、昼間の青天井の面影であるかのように感じられた。
雲がかかれば鉛色、晴るる夜なら
ただ黒いのは、私だけ。
————もう少し、鐘の音が続いていたならばよかったのに。
移りゆく世に取り残されたような気がして、急に足元のアスファルトも冷たく感じた。心の行き着く場所を求めて、温くなったコーヒーを喉の奥に流し込む。
私の心は、ちょっぴりほろ苦くて、仄暗い琥珀色になった。
<了>
音と色と。 亥之子餅。 @ockeys_monologues
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