エピローグ

 だからこそ繋がったわけなのだが、日吉源太の職場近くのアパートと石渡紬の大学近くのマンションはそう遠くない距離にある。それ故、待ち合わせ場所はやはり近場のファミレスへとなる。

 あの夜からもメッセージのやり取りは続いていた。源太には夜勤などのシフトもあるため、中々お互いの都合が合わず、今日は約一週間ぶりに出会うことができたのだった。


「お待たせしました。お体の方は大丈夫ですか?」

「うん。なれない喧嘩なんてしたもんだから、翌日は体中の変な筋が攣った感じになったけど、今はなんともない。昔から体だけは頑丈にできてるから」

「本当にご迷惑をおかけしました。でも、日吉さんのおかげでまた笑えるようになりました」


 紬は明るいイエローのブラウスに負けないくらいの、とびっきりの笑顔を見せた。


「僕もだらだら生きてきたからさ、本気になってみるのも悪くないなって思って。……それで、もう一度本気になってみようって」


 一度、大きく深呼吸をした源太は真っ直ぐな瞳を向け、続けた。


「もしよかったら僕と付き合ってもらえないかって。あ、いや、こういう場所で話す事じゃないのかな? ファミレスとかムードなさすぎか……。失敗した。こういうの慣れてなくて」

「関係ないですよ。女だったら、好きな方にそう言っていただけるなら場所なんか関係ありません。でも、本当に私なんかでいいんですか?世間知らずでご迷惑ばかりかけたのに」

「世間知らずはお互い様だと思う。君となら、なんだか自分も成長していけるんじゃないかと思ったから」

「ありがとうございます。私も同じ気持ちです」


 緊張から解き放された源太は大きく息を吐き、本気も悪くないなと思った。

 ちょうどその時、二人のテーブルに甘い香りを放つペアのホットケーキが運ばれた。

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日常に牙を剥く理不尽な暴力を打ち破れ 甘宮 橙 @orange246

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