時の魔術師の冒険録番外編 ~終わりの先の始まり~

五三竜

未来へのスタート

 人は時を経て目覚める。それは、決まった場所を持たない。天界、魔界、人間界、その他諸々……。どこで目覚めるか分からないが、必ずどんな形であれ目覚める。


 そして、それは時の魔術師……すなわち、時任ときとう慧人けいとも例外では無い。慧人は人としての一生を終え新しい存在として新たなる場所で目覚めた。


「……」


 慧人は目覚めて直ぐに立ち上がると、いつも通り着替えをして歯を磨き軽い運動をする。そして、周りを確認した。


「……」


 そこは普通の家だった。豪華という訳でも、貧相という訳でもない。ごく一般の家。どこから見ても特に変わったところは無い。慧人はその家の玄関の扉に手を掛けゆっくり開いた。


 外に出ると、陽の光が眩しいほど照らし鳥のさえずりが聞こえる。そして、まるで自分のくらい心を浄化するかのように暖かい。


「……」


 慧人はそんな明るい空を見上げてどこかに向けて歩き始める。そして、鼻歌で明るい歌を歌いながら足を進める。


 慧人はそんな明るい道を進みながら、周りの自然の空気を感じた。


「……あ」


 慧人は開けた場所に出ると、目の前の景色を見つめて声を上げた。そして、少しだけ優しく微笑むと見えた景色に向けて足を進める。


「もぅ、遅いよ。ずっと待ってたんだから」


 慧人に向けてそんなことを言う女性がそこに居た。慧人はその女性を見て声を上げたのだ。


 その女性は頬を膨らませて怒っている。


「悪いな、レミア。それじゃあ行こうか」


 慧人はそう言った。目の前にいる女性の名前は、レミア・ルリファだ。レミアは慧人と2人で旅をしていて、訳あって死んでしまった。そして、慧人はその後を追うように死んだ。


 しかし、慧人はこうして死した後の世界でレミアと再び会うことが出来たのだ。


 そして、慧人とレミアはこの死後の世界で幸せな生活を続けていた。


「ねぇねぇ、慧人は今日どこに行きたいの?」


「さぁ、何処だろうな?俺にも分からん」


「またそれ?優柔不断何だから」


「優柔不断か……。俺も変わってしまったのかもしれないな。昔は殺す時は殺すと決めていたし、死ぬ時は死ぬと決めていたからな」


 慧人はそう言って少し暗い表情を見せた。レミアはその顔を見て少しだけムッとする。


「あ〜!またそうやって自分を追い込むんだから!いつも言ってるでしょ?私が死んだのは慧人のせいじゃない。それに、今こうして出会うことが出来た。何も悪いことなんてなかったんだよ」


 レミアは優しい笑顔で慧人を諭すようにそう言ってきた。慧人はその言葉を聞いて少しだけ目を瞑ると立ち止まる。そして、ゆっくりと開いて空を見上げて言った。


「空が青く澄んでいる」


「え?何?急にどうしたの?怖いよ」


 レミアは突然変なことを言ってきた慧人に対して驚きそんなことを聞いてしまう。しかし、慧人は優しい笑顔を浮かべながらレミアの顔を見てその顔に向けて手を伸ばす。


 そして、鼻の頭を押して上に上げる。


「ふがっ!?」


「おいおい、怖いは言い過ぎだろ」


 レミアはそう言ってくる慧人の顔を見て頬をあからめる。そんなレミアを見て慧人は手を離すと今度は頭の上に乗っけて言った。


「暗かった俺の空はレミアのおかげで青く澄み渡った。お前のおかげだ。ありがとう。お前のおかげで俺はこうして死した世界で前を向くことが出来た。この変化は改悪でも改良でもない。この変化は未来への『スタート』なんだ。それが、お前のおかげで分かったよ」


 慧人はそう言って微笑む。その笑顔には、責任を感じている様子は微塵も感じとれなかった。


 もしかしたら、まだ責任を感じているのかもしれないが、それでも慧人は心から幸福な気持ちになれたのだと思う。だったら、これからレミアに出来ることはたった一つしかない。


「幸せがずっと続きますように」


 レミアはそう呟いて手を組み合わせ祈った。


「祈りか……2つの思いは重なり合う。その思いこそが、これからの世界を作る新しい力なのかもしれないな」


「ふふふ、そうかもね。だったらその新しい力を絶やさないように、スタートしなきゃ。ほら、1歩目を踏み出して、新しい生活を始めなきゃ!ねっ!」


 レミアはそう言って慧人の前に立ち手を差し伸べた。慧人はその手を握りしめ、絶対に離さないという誓い歩き出す。そして、2人は死した世界で新しい生活がスタートした。

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