スタート

浅葱

それはまだ始めてない

「僕は傑作を考えているんですよ。ドラゴンが出てくる話を考えています」

「ふうん、そうなんだ? 書いた物はある? 途中でもいいから見せてよ」

 そう聞くと、青年は言葉を濁した。

「いえ……まだ書いてはいないんです。もっとお話を練り上げて、そうしたらウェブで連載を始めようと思ってます!」

「まだ話を練り上げていないのに傑作って決まってるんだ? すごいね」

 青年はムッとしたようだった。書いてないのに傑作かなんてわかるわけがないじゃないか。

「ねえ、今までに話を書いたことってある?」

「ないですけど……でも絶対面白いですから!」

 なんという自信だ。まぁ自信を持つのはいいことだ。でもせめて四百字詰め原稿用紙1枚でもいいから書いてからそういう話をしてほしいかな。

「プロットはあるの? なんだったら見るよ?」

「……プロット……ああプロットですね! 全部頭に入ってます!」

 青年は得意そうに言って自分の頭を軽くポンと叩いた。

「そっか、じゃあ私には見ることができないから帰るね」

「えっ? もう帰るんですか?」

「だって君、小説を書くんだって言ってたじゃないか。それを見せてもらえると思って楽しみに来たのに」

 青年は黙った。

「で、でも傑作を書くので……」

「うん、書いたら見せてね」

 席を立つ。

 もし百字でも二百字でも書いて持ってきてくれたなら少しは見込みがあると思ったんだけど、残念ながら口だけか。

「物語を考えるなんて誰にでもできるんだよ。まずは書かなくちゃ」

 さぁ、その一文字を書いてみよう。

 そうしたら始まるんだ。


おしまい。

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