第65話 汚名返上


「――とりあえず、部屋を用意しよう。こんな大雨の中来たんだ。まず休んでくれ」


 俺は突然来たポモナの為に、部屋を用意するようザカンに頼んだ。

 ザカンはすぐに空き部屋の確認に向かった。


「いやぁ、ありがとうございますぅ」


「気にするな。明日からたくさん働いてもらうからな。まずこの村の人たちの診察をしてもらうからな」


「任せてください」


「ちなみに、寝込んでいる怪我人もいるんだが、一応診てもらえるか?」


「もちろんですよ」


「――リンドラ様。ポモナ様。お部屋の準備が整いました」


 ザカンが戻ってきた。


「よし。では案内してやってくれ」


 俺がそう言うと、ザカンはポモナを部屋に案内した。

 俺はポモナのことを伝えるべく、スーの元に向かった。




◇ ◇ ◇




「……ということなんだ。これからはそのポモナと話し合って薬を調合してほしい」


「ん」


 多少雨に濡れながらも、スーの元に着いた俺は、早速ポモナのことを伝えた。

 スーは、何も動じることなく、ポモナのことを認めた。


「だからそのうち、ちゃんとした施設を用意する。設備も……資金に余裕があれば買おう!」


 最近金使いすぎだからな、余裕があれば、できる限り良い設備を設けよう。


「まあ明日この村で診察を行うから、挨拶に行くといい」


「ん」


 難なく認めてくれたので、あっさり話が終わってしまった。


「まあそれだけだから。また何かあれば伝えに来る」


「ん」


 スーが返事したのを確認すると、俺はまた屋敷に戻って行った。




◇ ◇ ◇




「――まさか、ここまで早く医療関係の話が進むとはな」


 自室に戻った俺は、机に肘をついて、今後について整理しようとしていた。


 医療関係。

 ポモナが来たことにより、現実的になってきた。

 その為にも、施設と設備を設けたい。

 しばらくの間はこの屋敷を使ってもらおう。

 オンドレラル居住区に関しては、かかりつけ医のように、馬車でポモナを送って診てもらおう。


「そうなると金銭面がなぁ……」


 干し肉は売る範囲を広げて、バイハル領の3つの大きな町で売るようにした。

 その干し肉の調達も、ジャッカルたちのおかげで、4つの森を管理して、順番で回ってもらっている。


 これだけでも十分だが、ランタンも最近売れてきている。

 と言うのも、ホクロウ組合の調子が最近いいことから、魔物を寄せないランタンの存在がバレてしまった。

 それからどんどん契約の話が入ってくるから、少しずつ結んでいる。

 全部受け持つと、生産が間に合わなくなってしまうからだ。

 今は各居住区に配っているしな。


 次に温泉。

 カズキが現場指揮していたことが分かったが、あの一件以来、今後の計画をカショウに教えて姿をくらました。

 その温泉施設ができるのに、もう少しの時間と、かなりの費用がかかる。


「居住区の訪問ついでに盗賊を倒して稼ぐか?」


 よくよく考えれば、やってること盗賊と一緒か……?


「まあ、元々ウチの領のモノ奪ってる訳だし……」


 少しモヤモヤしたが、切り替えて明日向かう居住区の確認を、カズキから買った地図を元に、兵士たちと行った。




◇ ◇ ◇




 ――大きい居住区、ゴバガイ居住区。


「――断る。帰れ」


 居住区に着いた俺たちは、警戒して出てきた男たちに事情を話したが、即答で断られてしまった。


「……理由は?」


 その居住区の代表と思われる、顎髭を生やした男が前に出た。


「新しい領主だかなんだが知らねぇが、また俺たちから搾取するつもりだろ!」


「――そうだそうだ!」


「――しかもまだ子供じゃないか!」


 周囲の人たちも声を上げる。


「そんなつもりはない! サイハテ領を復興する為に、良い関係を築きたいのだ!」


「そんなこと言って、また騙す気ではないのか!」


 ダメだ。

 簡単には警戒は解けないか。


「ではどうすれば信用してもらえる!」


「どうって……俺たちは今かなり持ち直してきている。食料の確保も、防衛面も改善した。今更何かをしてもらう必要はない」


 確かに、周囲を見渡すと、防御壁に畑、武器もちらほら見える。


「そうか……。では今日は帰るとしよう。荷馬車から荷物を降ろして帰るぞ!」


 俺は兵士たちに指示を出し、荷馬車から、食料やランタンを降ろさせ始めた。


「おい。どういうつもりだ」


 施しは受けないと、代表の男が声を低くする。


「俺が勝手にやっていることだ。受け取るかどうかは任せる」


「ああ……?」


「あっ。説明書もついているからな」


「そこじゃねぇよ!」


 そんな会話をしていると、この居住区の分の荷物は降ろし終えた。


「ではまた伺う。その時にまたゆっくり話をしようじゃないか」


 俺は馬に跨り、居住区を離れた。


「するかよ! とっとと帰れ!」


 代表の男は、最後まで俺に心を許さなかった。




◇ ◇ ◇




「――そう上手くはいかないかぁ」


 俺は馬に乗りながら、そう呟いた。


「――大丈夫ですよ。領主様の優しさ、凄さは、すぐに伝わるはずです」


 ルシアの直属の部下、バリュウがそうフォローした。


「そう簡単には伝わらないさ。きっと不安なんだ。まずは安心させる必要がある」


「……つまり、賊の殲滅ですか?」


「……ああ。そして、周囲の領地とも、良い関係を結ばなければ」


「療養中の兵士たちが復帰すれば、すぐにでも討伐に出れます」


「その時は頼むぞ。お前たちもな」


「「はっ!」」


「――次の居住区ではきっと迎え入れてくれますよ領主様。さあ行きましょう」


「それだけ前向きだと、本当に助かるよ――」


 俺はバリュウの言葉で気持ちを切り替えて、次の居住区に向かった――。

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俺は王族だったけど、辺境領主になっちまった ダブルミックス(doublemix) @doublemix

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