第5話 私、猛獣使いになる!

 キャサリンもいなくなり『チームキャサリン』は、実質何となく各々個人プレイで生計を立てるそんな日々が続いていた。


 そんなある日。


「みんな! 聞いて! リクエストがきたの!」

「何を騒いでるんだい? 華ちゃん」


「あのね、『チキンカレー』のオーダーが届いたの。一週間後にベースキャンプにお届けよ!」


 あれ? みんな聞いてない?


「ちょっとぉ! 分担してやりましょうよ!」


 最初に反応したのは、偽りの経歴書で『チームキャサリン』に配属された馬鹿うましかさんだった。


「桜小路さん、残念ながらチキンの在庫がないです」

「綾小路です。そんな? 潤沢にあったでしょ?」


 私は慌ててリストを確認する。


「ゼロ…。更新者は誰?」

「櫻子さんです」

「ちょっと待って、更新はいつ? みんなに共有したの?」


 私は大人げもなく興奮し、美魔女櫻子に聞いてみた。すると彼女は「自分が更新してから半年たったので削除しました」と済ました顔で言いきったのだ。


「確認しないで削除したの? このために準備して発注したって連絡したよね? 誰かに確認した?」

「いえ。ルールなので削除しました」

「何のルール?」

「昔からのルールです。それに、綾小路さんからの連絡って、メールですか? 届いてないですけど」


「いやいや、チームの連絡に使っているチャットで連絡したんだけど。他のみんなは届いてるよね?」


 みな、無言で頷く。届いている証拠だ。


「私、メールしか見ないんで。それにそんな新しいツール、信用できないので使いません」



 な、何てこと…。チームのチャットでいろいろやるって決めたよね? そうだ、そこを気にしてても始まらない。代替え品を探そう。


 私は気を取り直して、オーダーに応えるために気持ちを切り替える。ゼロ回答はしたくない! だってみんなでやる始めての大型プロジェクトなのだから、諦めたらそこで終わりだ!


「櫻子さん、何か出来ることはないですか?」

「ないですね。先方から素材提供がない限り、やりません。私たちは何でも屋じゃないので、用意頂くのがルールです」

「ルールって…」


 ダメだ。ここで怒っていたら話が先に進まない! 次だ次。


「あの、馬鹿うましかさん。別の具材を提案できますか?」

「あ、いや、えっと…その…まーそのぉ…」

「落ち着いてください。例えばシーチキンありましたよね?」

「あー、シーチキンですね。いいですね。そうですねそうですね」

「作れますか?」


 明らかに狼狽している馬鹿うましかさん。


「レシピに、シーチキンカレーという情報がなく、マニュアルもないので」

「えっ? 鍋があれば作れない?」

「その鍋は作れない仕様です」

「えっ?」


 くらくらする…。煮物ができない仕様の鍋がこの世に存在するのだろうか?


「チキンカレーなら、その鍋で作れるの?」

「はい。もちろんです」

「でもシーチキンはダメなの?」

「マニュアルも調べたんですが…ないですね」



 こっちもダメだ…。


「夢野くんはどぉ?」

「華ちゃん、安心して。チキンは名古屋コーチンがいいよね。いや、待てよ。大山どりがいい。雛から育てて有機栽培されたトウモロコシをエサにしよう。これから買い出しだ! 元気な子をゲットしなくちゃ」


 夢野は夢見る面持ちで、鳥かごを持って出掛けるところだった。


「ちょっと待った! 仕入れまでどのくらい時間をかけるつもり?」

「そんなの時間かかったって、最高のチキンカレーを提供することが大事だよ」


 あぁ、もういいです。行ってらっしゃい。


 最悪だ…。草食男子くん、君ならわかってくれるよね。

 私は恐る恐る話かけてみる。相変わらず目も会わせないのだから近寄るしかない。



「あのぉ~、沙良さらくん。代替え品でもいいので何か案はないかな?」


 彼は少し考えたあと、シーチキン、ひよこ豆、焼き鳥の缶詰、ミートボールをかき集め実験を始めた。


「な、何を始めたの?」

「いや…。何が一番チキンに近いか、美味しいか検証を」

「……」



 そうだった。彼らは職人なのだ。管理しようとする方が間違ってるのだ。


 私は大きく息を吸い込み叫んだ。


「はい! 注目っ! 私はこれから代替え品でよいか交渉してきます。馬鹿うましかさんはお隣のチームにチキンがないか確認。あった場合私に連絡を。いい?」


 馬鹿うましかは驚いた顔で頷いた。


「ほら早く動く!」


 今度は夢野と沙良に向かって叫んだ。


「夢野さんは、ブランド鳥でなくていいから、最短で入手できるところを探して共有を」

「ブランドでなくていいのかい?」

「スピード重視で、クオリティは基準値で行きましょう。これは応急処置です!」

「応急処置ね、了解」


 応急処置だという言葉が彼を納得させたようだ。


「あ、探すだけでいいです。馬鹿うましかさんの回答を待ってどうするか決めましょう」


 彼が初めて馬鹿うましかさんをみて頷く。これは「わかった」ということだろう。


沙良さらさんは、焼き鳥の缶詰とシーチキンだけ試してみて。チキンがなかった時の保険で必要だから」


 沙良さらは頷き作業を開始した。


 最後は…。


「櫻子さんは、ジャガイモなど具材の準備を。できる範囲で大丈夫です。あとは私たちで何とかするんで」


 私はそこまで一気に話す。


「以上!」



 みんなが動き出した。

 これでいい。これで動けばなんとかなる!



 私が選んだ道は間違ってない。と自信を持って言えるその日まで、走り続けよう。止まっている暇などないのだ。


 室内にカレーのいい香りがただよってきた。


 私は負けない。へこたれない!

 ここはまるで動物園だ。だからここの猛獣どもを従えて、私は駆け抜ける! そして最高の猛獣使いになるのだ!


 絶対負けないっ。

 おじい様の名にかけて! 


 え?




END

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ここは動物園!? だったら私、今日から猛獣使いになります! 桔梗 浬 @hareruya0126

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