魔王の城へ

馬車を降りた四人は魔王城への道を進んでいる途中、襲いかかってきた人型の魔物と対峙していた。


ユリアス「ハル!今だ!」


魔物の攻撃を受け止めるとユリアスは、ハルにとどめを刺すよう叫ぶ。


ハル「ーッ!!!」


ユリアスからの声に反応したハルはその場から高く飛び上がると


ハルジオン国王から受け取った剣を振りかぶり魔物の体を斬り裂いた。


グオオオォォォ!!


耳が張り裂けそうになるほど大きな断末魔を上げると、魔物の体は黒い霧となって消えていった。


バーバラ「やりましたね!…?これは…?」


魔物が居た場所には魔物が身に着けていた衣服と緑色に輝く鉱石が加工された首飾りが落ちていた。


アキ「これ…ミスリル鉱石!?レオ大陸でも特に希少な鉱石よ!」


首飾りを見たアキは希少な鉱石があしらわれていることに驚く。


バーバラ「魔物が鉱石の加工技術を持っていた…ということでしょうか…」


ユリアス「いや、まだ魔物と人間が友好的だった頃に人間の職人から譲り受けたものだろう。」


二人の会話も聞かずに首飾りをジッと見つめていたアキの目は輝いていた。


その姿をみたハルはアキに声をかける。


ハル「…欲しいのか?それ」


アキ「えぇ!?そ、そんなことな、ないわよ!?」


ハル「分かりやす!貰っちゃえば?」


図星を突かれたアキは口では否定していたものの首飾りをその手から離すことは無かった。


あまりにわかりやすく動揺する彼女の様子にバーバラとユリアスも笑いながら賛同する。


ユリアス「いいんじゃないのか?別に」


バーバラ「私もアクセサリー等には疎くて…きっとお似合いですよ!」


三人からの言葉を聞いたアキはまんざらでもない様子で首飾りをつけた。


ハル「おぉ、似合ってんじゃん。」


アキ「!!そ、そうかしら!…えへへ…」


ハル「ああ…」


にやにやと嬉しそうに笑うアキの横で、ハルは何かを悩んでいるような表情をしていた。




夜のとばりが下り、静まり返った森にはあたりに漂っていた


ハズの魔物の気配もすっかりと無くなっていた。


バーバラ「今日はこの辺りで野営をすることにしましょうか。」


アキ「そうね~、もう足が疲れちゃった。」


荷物から道具を取り出し野営の準備をすると歩き疲れていたバーバラとアキはすぐにテントの中で眠ってしまった。


二人が眠っているのを確認したハルは焚火の前で考え事をしていた。


するとその様子を見ていたのかあたりに落ちている木の枝を拾っていたユリアスが話しかけてきた。


ユリアス「…考え事か?何かあったら相談しろって。」


ハル「あ、ああ…あ、えっと、薪ありがとう、ユリアス。」


自分の心の内を見抜かれたハルは悩みを打ち明ける。


ハル「…さっき倒した人型の魔物…あいつがつけていた首飾りさ…」


ユリアス「ああ、たしかあいつは「人鬼オーガ」だっけ?


今首飾りはアキがつけてるんだよな、それがどうした。」


先ほどの魔物との闘いを通じてハルは一年前、魔物と人間が友好的だった時代のことを思い出していた。


ハル「あの魔物はなんで首飾りをつけてたんだろうな…。」


ユリアス「どういうことだ?」


ユリアスからの疑問に答えることなくハルは続ける。


ハル「いや、あんなに喜んでいるアキの姿を見ていたらさ…


あの魔物も首飾りを買ったり、誰かから貰ったりして喜んでたりしてたんじゃないかって。


もしそうだとしたら魔物も俺たちもそんなに変わらないんじゃないかって思って…


それに一年前は人間と魔物で手を取り合って暮らしてたハズなのに。」


魔物とアキの喜ぶ姿を重ねてしまったハルは魔物が本当に人類の敵であるかを考えていた。


ユリアス「…でも魔王と呼ばれる存在が現れてから魔物が侵略を開始したのは事実だろ。


やっぱり魔物を先導しているのは魔王だと考えるのが妥当だし、


そいつを倒すために俺たちは今魔王の城に向かっているんだ。本来の目的を忘れるなよ」


ハル「…そう、だな。うん!今考えるべきは俺たちが住む国の安全だ!ユリアス!ありがとう!」


ハルはまだどこか心に引っかかることがあったようだが、ユリアスからの激励を受けて


魔王討伐の決意を固めるのだった。悩み事を吐き出したことで安心したのか


ハルは馬車でのユリアスの悲しげな表情を思い出し、ユリアスに訪ねようとした。


ハル「あ!そういえばユリアス!お前馬車で…」


アキ「んん~…まだ起きてたの二人とも…」


馬車での出来事についてハルが尋ねようとすると二人の話し声を聴いてアキが目を覚ました。


アキの声に気づいたユリアスは話を彼女に一言謝り、就寝の準備を始める。


ユリアス「すまんアキ!起こしちゃったな。ハル、その話はまた明日な。」


ユリアスはハルが話そうとしたことを察したのかその話を遮るようにテントの中に入り、体を毛布で包むと目を瞑った。


その様子を見たハルは眉をひそめると話を遮られたことに釈然としない様子でテントに入り、横になった。




翌日、テントをたたみ冒険の準備を始めるユリアスにハルは声をかけた。


ハル「ユリアス、お前もなんか悩みがあるんだったらいつでも言えよな。」


ハルの優しい声に思わずユリアスは息を呑むと何かを話そうと口を開けた、


しかし言葉がのどに詰まったのかユリアスはハルに感謝を述べるだけでそれ以上は何も話さなかった。


アキ「ほら二人とも!そろそろ行くわよ!」


先に支度を終えたアキとバーバラは二人に声をかける。


ハル「持ってる荷物少ないくせに…首飾り貰って調子のってんなアレ。」


荷物を纏めた四人は再び魔王城へ向かって歩き始めた。


そして…




ハル「来たな…」


四人の目の前には禍々しいオーラを纏っている巨大な門が立ちはだかっていた。


その迫力に思わず四人は息を呑む。


バーバラ「ッ…これが魔王城…!」


すると突然門が大きな音を出して開き始める。


門の中から溢れ出る強大で邪悪なオーラにアキは思わず杖を持っていた手に力が入る。


ハル「大丈夫か、アキ」


ハルからの優しい声に安心したのかアキは大きく深呼吸をして


アキ「ええ、もう大丈夫よ!」


ユリアス「よし、行くぞ…!皆!!」


四人はユリアスの声に大きく頷くと門の中へと進んでいった。

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ノケモノ達の唄~国に裏切られた勇者は転生して、かつて戦った魔王とともに真の敵に立ち向かいます~ @lelele_0101

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