ハルの過去

魔王城への道中、ハルは馬車の中でハルジオン国王から受け取った装備をユリアスとバーバラに手渡した。


バーバラ「このローブ…すごい!こんなに軽いのにとっても頑丈で、手にもつだけで魔素が体に満ち溢れてきます!」


ユリアス「この戦斧…いったいどんな素材を使っているんだ…こんなにも重厚で大きな刀身なのに軽く扱いやすい…!」


二人はそれぞれの特性に合わせた武具を眺めると、その性能の高さに驚愕する。


そんな姿を見たハルとアキはなぜか得意げな気分になり、思わずにやけてしまう。


ユリアス「…なんで二人が得意げなんだ…。」


アキ「いや~あんな優しい国王様がくれた装備を褒められるとなぜか私たちも嬉しくなっちゃて…んねぇ?」


ハル「いやぁホントにいい人だった~!…あ、でも隣にいた男の人はなんか怖かったな…ゲイルっていってたっけ?」


間の抜けたにやけ顔でやり取りをしていたハルは話の途中、ハルジオン国王の隣にいた男のことを思い出す。


二人のやり取りを聞いていたバーバラはゲイルの名前に覚えがあるようだった。


バーバラ「ゲイル…確か現在ハルジオンにいる冒険者や兵士たちを率いる将軍…でしたね。


軍事国家となったハルジオンの実質的なトップだそうで、悪い噂も絶えないようです。」


ハル「そうなんだ…(でも国王様に対しては忠誠を誓ってる!みたいな感じだったけどな)」


アキ「にしてもかっこよかったな~。「いまここにいることを誇りに思っています」だっけ?」


バーバラの話に区切りがついたことを確認したアキはにやにやしながら王座でのハルの言葉を茶化すように棒読みで繰り返す。


自分が柄でもないようなセリフを口にしたことを今になって気づいたのか、


ハルはあたふたとした様子で自分の発言について弁解する。


ハル「はぁ!?おま…あれはただちょっと場の雰囲気に流されただけで…」


アキはそんな彼の様子を見て調子づいたのかハルの幼少期の頃の話をし始める。


アキ「ええ~?ハル、小さい頃急に右目を抑えて「俺の中に溢れる魔素がー!」って


叫び始めたりしてたじゃない。魔法なんて使えないのに!」


ハル「や、やめろ!そのことを言うな…」


二人はお決まりのやりとりのように言い合いを始めると、同じ馬車の中から静かな怒りを感じた。


その方向に視線を向けるとユリアスが腕を組みながら二人にさわやかな笑顔を向けていた…しかしその表情を見たアキは


アキ「…目が笑ってない…」


ユリアス「確かにここは酒場じゃないが…馬車を引いてくれている者がいるんだ…わかるよな?」


静かに、そして低い声で二人に言った。そんなユリアスを見た二人は姿勢を正すと額に汗を流しながらゆっくりと頷いた。


静まり返った馬車の中で肩を落として小さくなっているハルとアキを見かねたのか


バーバラが二人の幼少の頃のことについて聞き始めた。


バーバラ「え、えっと…ハルさんとアキさんはどれくらいからお友達なんですか?もっと詳しく知りたいです!」


ハル「あ、あぁ…そう?じゃあえっと、俺とアキは小さい頃からずっとハーラル王国の城下町で暮してたんだ」




ハーラル王国城下町。ハルは鍛冶屋の父とその妻の間に生まれ、順調に成長していった。


ハルが4歳の頃、父の仕事仲間であるという男が仕事のことについて用事がある、


とハルの自宅に来た。その際にその男の陰に隠れていた一人の少女とハルは出会った。


「ほら、挨拶しなさい。ハル君はアキと同じ年だからきっと仲良くなれる」


この少女こそアキである。アキは出会った当初こそハルに対して距離があったものの共に時間を過ごす内に心を開いていった。


そんな日常を過ごしていたある日、ハルの両親が突如謎の失踪を遂げた。ハルはまだ14歳になったばかりの出来事だった。


それ以来ハルはアキの家族とともに暮らし、幼いながらも父の仕事を引き継ぎたくましく成長していった。




ハル「結局、今の今まで親の行方は分かってないんだ。国も捜索を途中で止めちゃったしな。」


バーバラ「そうだったんですね…」


複雑な事情を聴いてしまったバーバラがバツの悪そうな顔をしているとハルが


そんなことは気にしていないといった様子で話し始める。


ハル「ま!小さい頃からそんな仕事をしていたから腕っぷしは強くなったんだけどな!


それに、魔王討伐を終えたら親を捜しに行くつもりなんだ!あの人たちは俺たちになにも言わずに置いていくような人間じゃない…きっと何か大切な事情があったんだと思う!」


バーバラ「そうですね…!」


ハルはバーバラとの会話の途中、何も喋らないユリアスに気づき恐る恐る顔色を疑う


ハル(こいつまだ怒って…)


彼の表情を見たハルは思わず目を見開いた。


ユリアスの表情はどこか悲しげで、悔しそうに唇を嚙んでいた。


何かを後悔しているようなその表情に思わずハルは声をかける。


ハル「おいユリア…」




ヒヒーン!!




ハルの言葉を遮るように馬車の外から馬の鳴き声がすると御者の男が4人に声をかけてきた。


「お客さん!すみません…ここから先の森は魔物が特に多い地域でして…」


ユリアス「あ、ああ…ではここからは我々で歩きます、ここまで本当にありがとう」


御者の男に笑いかけ、荷物を纏めるユリアスの姿はいつもとなんら変わらない様子だったが、


ハルの目には先ほどの表情を隠すため取り繕っているように映った。

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