王城ハルジオン

ハル「はぁ…」


アキ「はぁ…」


酒場を締め出された二人はユリアスの言葉に肩を落としつつも


ハルジオン国王に会うために城へ向かっていた。


アキ「…悪かったわね、ハル。」


ハル「いや、こっちもすまんかった。」


二人は酒場でのやり取りを思い出すと互いに自分の発言について謝罪した。


ハル「ていうか、ここまできて言うのもあれなんだけど、アキは本当に大丈夫なのか?」


アキ「…?何がよ。」


たった一人の幼馴染であるアキが魔王という強大な存在と対峙することを心配していたハルは、


彼女に対して今一度問いかけた。


ハル「いやだって、元々冒険者だったユリアスやバーバラと違ってお前はちょっと前まで


魔物と戦ったことなんてなかった訳だしさ、魔王とか…危ないだろ。(小便漏らしてたし。)」


アキ「はぁ…だから戦いの経験がない私たちのためにハーラル国王様がハルジオンに行くまでの五日間、魔物の多い森や山道の道を手配してくれてたんでしょ。それに魔王討伐に向かう道中も魔物とは戦うことになるでしょ!経験はもうバッチリよ!」


自身に満ち溢れた様子でそう言う彼女の姿は、これから起こる戦いに対する不安を


どうにか隠そうと、虚勢を張っているようにハルの目には映った。


アキ「そ・れ・に!私はハーラル王国唯一の炎を扱う魔導士よ!」




魔導士。大気中に漂う「魔素」と呼ばれるエネルギーを吸収し体内で変換することで


常人とはかけ離れた能力「魔法」を扱う者たち。


彼らは炎や雷など様々な属性を自在に操ったり、第三者の身体能力を向上させたり、


傷ついた体を癒したりと人々の暮らしに寄り添い、その生活を豊かにしてきた。


しかし魔導士は各国にも数えるほどしか存在せず、


魔素を扱える人物は1000人に一人の逸材と呼ばれていた。




アキ「まぁバーバラの方が便利な魔法沢山使えるんだけど…」


ごにょごにょと小さい声で話す姿を見たハルは、彼女の普段と変わらない様子に安心し小さく笑った。


ハル「その様子だと大丈夫そうだな!でもまた怖くなったら言えよ?


魔法を使えるお前はこんな危険なことせずにどっかの城にでも仕えた方が楽に暮らせるんだから。」


アキ「いいのよ!そんなのつまらないし、それに…ハルのことも心配だったしね!」


綺麗な髪をなびかせながら笑顔でそう言った彼女の姿にハルは思わず顔が緩んだ。


ハル「え、ちょ、今のもう一回!」


アキ「はぁ!?も、もう言わないわよ!ほら、お城!もうすぐそこよ!」


アキは自らの発言に顔を赤らめると、羞恥心をごまかすように叫びながら


ハルを置き去りにして城の方へ走って行ってしまった。


その様子を見たハルはにやけた顔を正すと彼女を追いかけるのだった。




アキ「はぁ…はぁ…。ここがハルジオン王城…近くで見ると大きい…!!」


ハル「はぁ…はぁ…。そ、そうだな…てか全然距離あったんだが…?」




ハルジオン王城。軍事国家であるハルジオンの中心にあるこの城はレオ大陸でも特に優秀な人材が集まることで、魔物に対する装備の製造や各地へ冒険者の斡旋など、様々な依頼を国内外から請け負う対魔物の最後の砦である。


ハルジオン王国は魔物が人間と敵対するまでハルジオン国王が統治する小さな国だったが


魔王が鎮座する魔王城に最も近い国であることから各国からの支援を受け、現在は大陸一の軍事国家として知られている。




ハルジオン王城についた二人はハーラル王国からの手紙を門番に渡し王座へと進むと


そこにはすでに国王、そしてその隣には大剣を背負った大男が待っていた。


ハル「はぁ…はぁ…。ハルジオン国王…ハーラル国王の命により、魔王討伐の武具を頂戴に参りました。」


ハルジオン国王「おお勇者ハル。君のことはハーラル国王から聞いている。武具はこちらに…っと息が切れているが…大丈夫?」


アキ「はぁ…はぁ…。問題ありません、ええ…本当に…。」


ハルジオン国王「そ、そうか…ならまぁいいんだが…ゴホン!えー、ゲイル。武具をここへ」


場を引き締めるように咳払いをしたハルジオン国王は大剣を背負った大男をゲイルと呼び、


事前に用意していた武具をこの場に用意させた。


ゲイル「この国が誇る最高峰の鍛冶屋に装備を作らせた。様々な属性に耐性を持つ防具やお前たちの力を最大限引き出す武器…これ以上ない装備だ。用意してくださった国王様に感謝を忘れるな。」


ハル「勿論ですよゲイルさん!(なんか暗くて怖いなこの人…国王様は優しそうなのに)」


見ず知らずの勇者が自分のことを名前で呼んだことを良く思わなかったのか、ゲイルは軽く舌打ちをすると元居た場所へと戻った。


ハルジオン国王「君たちのような若者にこのような使命を与えることになって本当に申し訳ない…」


用意された武具を装備した二人を見たハルジオン国王は優しく声をかけると、静かに頭を下げた。


それを見て呆気にとられた様子のハル、アキを見ると国王は話を続ける。


ハルジオン国王「私は無理に君たちに行ってほしくはないんだ…一年前、魔物が人間に牙をむいてから沢山の人が死んだ。君たちのような有望な若者をこれ以上失いたく無いと思っている。国は違えど…みな大事な命なんだ。」


変わらず優しい表情でそう言った国王にハルは笑顔で話す。


ハル「違いますよ。ハルジオン国王。大事な命があるから俺は立ち向かうんです…


失われた命があるから…俺は戦います…!そのためにいまここにいることを誇りに思っています。」


ハルの真っすぐな目を見たハルジオン国王はもうこれ以上とめる理由は無いと悟ったのかそれ以上何も言うことは無かった。


ただ勇者の姿を目に焼き付け、その背中を見送ったのだった。




ハルとアキは武具を受け取り城を後にすると、すでに正門付近でユリアスとバーバラが荷物をまとめ二人を待っていた。


ユリアス「おー二人とも!どうやら装備は無事もらえたみたいだな。」


バーバラ「お疲れ様です!もう出発の準備は整っていますよ!」


ユリアスの顔を見た二人は酒場での出来事を思い出し苦い顔をすると小さな声で謝罪した。


その様子を見たユリアスはそんなことはもう気にしていないといった様子で笑い飛ばすのだった。


ユリアス「しっかし、一年前に比べてこの城もでかくなったなー!」


目の前の大きな城を見上げながらそう言ったユリアスにアキが問いかける。


アキ「ユリアスはハルジオン出身なんだっけ?」


ユリアス「ああ。魔物への対策やらなにやらで自然とここまで大きくなったらしい。魔王城が一番近いってのもあるだろうけどな。」


ハル(あれ…そういえば、たった一年で小国だったハルジオンが大陸一とまで呼ばれるようになったのか…各国が魔物に対する防衛の協力していたとしてもあまりに早い気が…)


バーバラ「みなさん!移動の準備ができましたよ!」


考え事をしているハルの思考を遮るように馬車の荷台に乗ったバーバラが声をかけた。


その姿を見たハルは先ほどの疑念など忘れて険しい表情で言った。


ハル「また馬車かよ!!」


アキ「しょうがないでしょー。魔物が多いから移動手段が限られてるんだし」


ユリウス、アキと順番に馬車に乗り込み、最後にぶつぶつと文句を言いながら馬車へ乗り込むハルを


見届けたバーバラは御者の男に声をかける。


バーバラ「では!よろしくお願いいたします!」


勢いよく走り出した馬車はハルジオンを後にすると目的地である魔王城へと向かうのだった。

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