魔王と勇者

酒場についたアキは店内を見渡すと席に座っている二人の冒険者を見つけ声をかけた。


アキ「お…いたいた!ユリアス!バーバラ!」


アキの声に気づいた二人は振り返ると、アキに向かい手招きをする。


ユリアス「おぉアキ!…ってあれ?ハルはどうした。」


ユリアスという男の冒険者は背中に大きな斧を背負い、筋骨隆々な体つきをしており


一目で彼は冒険者とわかるような見た目をしていた。


アキ「あぁ…ハルは乗り物酔いがすごかったらしくて…」


バーバラ「長い時間馬車に乗られていましたからね…ハルさんが来てからお話を始めましょう。」


バーバラという女の冒険者は黒く美しいロングヘアーに加えて華奢な体つきでありながらも


豊満な胸と綺麗な顔立ちをしており、その手には魔導書が握られている。その姿はまさしく「聖女」といったところである。




ハル「…よぉ、五日ぶりだなお前ら…うぷっ」


アキ「もう!ちゃんとしてよ!これからハルジオンの国王様の所にいくんでしょ!」


ハル「あ…あぁ…」


ユリアスはアキとハルのやりとりをやれやれといった様子で見ていると、


バーバラが空気を引き締めるように咳払いをする。


バーバラ「さて!これからについてお話しますよ!」


凛とした声が響き三人は椅子に座りなおすとバーバラの話を聞き始める。


ユリアス「あ、あぁ。そうだなそれじゃ始めてくれ。」


バーバラ「はい。まず私たちはこれからハルジオン国王の元に赴き、


魔王討伐に向けて作成していただいた武具を頂戴いたします。」




ハル(魔王討伐…か…)


レオ大陸。人間と魔物と呼ばれる異形の生物が交流し、友好的な関係を築いてきたこの大陸では


様々な国が存在しそれぞれの領土を守りながら、平和な世界を作り上げてきた。


ところが一年前、突如として現れた魔物を統率する存在「魔王」が現れたことで


それまでは人間と手を取り合っていたはずの魔物たちが突如人間の国に対し侵略を始めてきた。


この事態を深刻に受け止めたハルの故郷であるハーラル王国の国王は、


各国の協力をもとに大陸中の若者たちを集め武闘大会を開催し、


最も力をもつ者を「勇者」として魔王の討伐に向かわせることにするのだった。


そして現在、武闘大会で優勝したハルはハーラル王国やハルジオンなど各国の協力を経て


仲間や装備を調達し、勇者として冒険をしているのだった。




ハル(それにしてもハーラル王国ってそんなに大きい国じゃないよな…?なんで国王の呼びかけに各国が反応したんだ…?)


バーバラ「ちょっと聞いていますかハルさん!?」


ハル「んぁ!?あ、あぁごめん何だっけ。」


バーバラが酒場のテーブルに手をついて立ち上がるとハルに呼びかける。


考え事をしていたハルは話の一部を聞いていなかったようで間の抜けた声で返事をする。


バーバラ「もう!もう一度言いますよ!ハルさんとアキさんはこれから国王様の元に赴き魔王討伐のための武具を頂戴いたします。ここまではハルさんも聞いてましたよね?」


ハルは自分が話を聞いているということをアピールするように激しく首を縦に振る。


その様子を見たバーバラはため息をつくと一枚の紙を取り出した。


バーバラ「お城へ入る際はこちらのハーラル国王様からの手紙があれば問題なく入れます。


その他移動の便や道具、地図などこれからの冒険に必要なものは私とユリアス様が五日前に入国して調達しております。」


アキ「さすがバーバラ!乗り物酔いで弱ってたどこかの勇者様とは違いますな~」


アキがにやけながらでハルの顔を覗き込む。それに応じるようにハルが噛みつく。


ハル「はぁ~?初めて魔物と戦った時小便漏らしたやつが何言ってんだよ!」


アキ「ちょ!?それは言わないでよ!」


ガミガミと言い合う二人を見たユリアスは手に持っていた飲み物をテーブルに置き


穏やかな表情で二人をつまみ上げ酒場から締め出した。


ハル「なんだよユリアス!」


アキ「いきなりなに!?」


いきなりの出来事に対し叫ぶ二人に変わらず穏やかな表情、そして静かな怒りを秘めた様子でユリアスは言った。


ユリアス「二人の仲が良いのはよ~く分かった。だけど仮にも魔王を討伐する立場の俺たちが


他の酒場の人たちに迷惑かけちゃいけないよな~??」


ユリアスがそう言うと二人は言葉に詰まり反射的にその場に正座をした。


そこに畳みかけるように今度は無表情でユリアスが言葉をかける。


ユリアス「とりあえずお前たちは早く作ってもらった武具を取りに行きなさい。いいな?」


この言葉を受けた二人は小さな声で返事をすると、とぼとぼと城の方へ歩き始めた。




二人を見届けたユリアスは元の席に戻ると、バーバラとともに酒場のマスターの方へ歩き始め一礼する。


ユリアス「いや~騒がしくして申し訳ない!」


「いえいえ。仲の良いお二人なのですね」


マスターは特に気にしていないといった様子で笑い、二人に答えた。


バーバラ「ええ。彼らは幼い頃から今までずっと一緒に居た…幼馴染ですので。」


バーバラはにっこりと笑いかけるとユリアスとともに二人の後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る