風と生命の詩

いおにあ

第1話


 広漠たる平野を吹く風が、わたしのたましいを運んでいる。 


 ほわほわ、ふわふわと、わたしのたましいは軽やかに風を受けて、揺蕩たゆたう。


 幾千年もの気の遠くなるような時間、わたしのたましいは、この世界を彷徨さまよっていたような気がする。だが、本当にそうなのだろうか。記憶の大半は、時の彼方へと流れ去っている。


 わたしの意識のはじまりは、いつなのだろうか。遙かなる遠い昔のような気もするし、たったいま生まれたような感じもする。


 幾星霜も風に身を任せていると、風とたましいの境目が限りなくあいまいになってくる。風がたましいの一部分なのか、たましいが風の一部分なのか。


 虚空を漂いながら、わたしは景色を認識する。どこまでもひたすら、砂と岩が広がっている。ただそれだけの光景が、太古からずっと続いている。そして、恐らく未来永劫この光景は変わることはない。


 ときに、わたしのたましいは地面を這い回る。ころころ、ころころ、無味乾燥な大地をわたしは転がっていく。


 太陽が昇る。だが特に暑さを感じることもない。


 わたしは、なにものでもなかった。この広大で寂寥とした世界に、なにひとつ干渉することはない。世界もまた、わたしなぞ必要としていないようだった。


 今日もただ、わたしのたましいは転がり、吹かれ続ける。

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風と生命の詩 いおにあ @hantarei

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