第31話「貧民街の白蜥蜴」
「おお……アリョーシャ様。今日はどのようなご要件でしょうか。このような貧民街では大したおもてなしもできませんが、よければささ、中へどうぞ」
俺は王都の貧民街のとある人物の家に訪れていた。
ここに来た理由は情報を得るため。
そして目の前の白髪の老人が貧民街の長、ラキーチン。
またの名を、
彼と知り合うことができたのは偶然だ。
依頼で得た収入の一部を貧民街の支援する。
そんな活動を続けていた。
もっともこれは生前の自分が孤児院育ちで、
貧困に対しては人一倍思うところがあったからゆえの気まぐれ、
いわば自己満足であって善意の施しなんていう大層な物ではないのだが。
そんな活動の中でふとした奇縁があり紹介されたのが彼だ。
表の情報が集まるのがギルドとするならば、
ラキーチンには裏の情報が集まる。
貧民街の人間の持つ唯一の武器が情報。
貧民街に暮らすものたちを守るものは何もない。
武器も権力も地位も財も彼らは何も持たない。
あまねく人々を守護するはずの法と秩序すら彼らを守らない。
だから、自分の身は自分で守らなければならなかった。
そんな環境で身を守る術に得た物が、情報。
情報は時に自身を守る盾となり、
時に武器にもなる。
「ラキーチンさん、勇者が更迭されたという話を知っていますか?」
「はい。国王の勅命だとか。現在の勇者、エレ君を解任したという話は聞いております。あくまでも私見ではありますが、精神面での幼さはあれどこと戦闘に限っては勇者として彼ほどの逸材はいないと考えておりました。彼は私たち貧民街に暮らす者の希望」
「エレが貧民街の希望?それはどういう意味ですか?」
「アリョーシャさんにだけにはお話しますが、彼は貧民街の捨て子なのです。もっとも彼にとっては彼を守らなかった貧民街も我々も忌むべき存在であり、そんなことは捨て去りたい過去なのでしょうが」
これは知らなかった話だ。
貴族の家で育っていたと聞いていた。
だが、話を聞けば納得できる部分は多い。
「貴族の家で育ったというのは……。まあ、物は言いようというやつですな。確かに、彼は貴族の家で長い時を過ごしました。奴隷として。もとは馬車を引く馬よりも安い値段で買われていったのがあの子です。みな、彼を不憫に思えど、当時の我々には貴族に声を出す勇気もなく……幼子一人守ることもできなかった。恥ずべきことです」
ラキーチンは苦虫を噛み潰すようにそう語る。
なるほど、いろいろと腑に落ちた。
どうにも貴族らしくないとは思っていた。
なるほどそれも納得だ。
「いまさら彼への罪滅ぼしなどと言うつもりはありませんが、せめてものケジメとして、このラキーチンが得ている全ての情報をアリョーシャ様にお伝えしましょう」
そういって白ひげの老人は訥々と次期勇者について語り始めるのであった。
裏ボス屠った神官です。孤児たちとのんびりスローライフをたのしもうと思います くま猫 @lain1998
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