魔女たちの戦闘遊戯(3)

「……どう思う? ヴァーレリア」

「そうね――パワーバランス的には、ちょうどいいんじゃないかしら?」


 七人対七人。魔女のチーム同士が戦う様子を、空に浮かぶ飛行船から眺めていた、大人の女性としての雰囲気をこれでもかと纏った、妖艶な二人の魔女。


 《緊縛の魔女フェストデージェ月成つきなり理瀬りぜ。魔道具を作製、それを使った戦闘に特化した派閥|月光の工房《モンドシュテン》のトップ。


 《|旋風の魔女ラーゼシュトゥルム《ラーぜシュトゥルム》》ヴァーレリア・クラウノウト。詠唱を介する、基本的な魔術を中心に、最近は様々な変わり種も取り入れつつある派閥|祈りの顕現《アウスヴェーテン》のトップ。


 二人が見ていたのは、定期的に、互いの派閥に属する魔女から選抜された七人でチームを組んで、行う『模擬戦』だ。


 今から二〇年前。莫大な魔力を巡る相続争いで、一族同士が殺し合い、何人もの魔女が死んだ。


 派閥に属するものの、外部からやってきた血縁関係のない魔女――いわば『弟子』のようなものだ――は、あくまで『相続争い』である以上関係ないが、クラウノウトの血筋を引いた魔女は、最後には二人しか残らなかった。


 他でもない、この模擬戦を傍観していた、二人の魔女である。


「派閥同士、拮抗しているのが、一番互いにとっては良い状態とも言えるものね」


 それぞれの派閥のトップに立つ彼女らが、一度は壊滅しかけた派閥を復興させるにあたって、気を配っている要素の一つ。


 二つの派閥が、互いを敵視したうえで、実力を拮抗させる。勝って、負けてを繰り返しているうちに、どんどん高みへと登っていける。魔女の一族としての、最盛期の力を取り戻す近道となる。


「それにしても、理瀬。こうして、子供たちが戦っているのを見ると、思い出さない? 私たちが子供でいられた、最後の日の事」

「……そうね。あの子たちも、こうして楽しそうに……戦っていたっけ」


 二〇年経った今でも思い出す。いや、忘れられるはずがない。


 一族の、相続争いに巻き込まれて命を落とした、二人の妹。


「……私は見ていないけど……あの二人、最期も戦っていたんでしょ?」

「そのようね。私もその時、意識を失っていたから……気がついて、周りの状況から結論付けたのだけれど」


 今思い返してみれば、あの二人は本当に――楽しそうに戦っていた。


 今の《祈りの顕現》と《月光の工房》の関係。互いに敵視しつつ、しかし本気で憎んでいる訳ではない――そんな関係の先駆けとなったのが、あの二人だったのかもしれない。


「ねえ、理瀬」

「……?」

「……ありがとう」

「大丈夫? ヴァーレリア、熱でもあるんじゃないかしら?」

「な、ないわよ。思い出しついでに、そういえば忘れてたって。その、あの時――」


 少し恥じらいながら、ヴァーレリアは紅茶二よく合う、ガトーショコラのケーキを頬張る。


 甘いチョコレートに適度なほろ苦さが、口の中でじわりと広がり、とても美味しい。


 ……だが、流石に、これまでの人生で、過去に食べてきたケーキの中でも一番美味しい――とまではいかない。


(まあ、当然よね)


 ヴァーレリアが一番美味しいと感じたケーキは、だって――。


(あの日。島から戻って、最初に食べたケーキの味が……未だに忘れられないものね)

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狂気戯曲に魔女は哭く 〜果てた大魔女と相続争い〜 束音ツムギ @Tsumugi_bane

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