魔女たちの戦闘遊戯(2)
島の中心に広がる森の奥にて。
「あの姉妹以外は片付けられたようだけど……こちらもまた、片付けられてしまったようね」
金色のミディアムヘアの少女――
左手に握るスマートフォンに目をやれば、地図に記された金色の点は残り一つ。まだ戦える味方の位置を指し示すその点が一つという事は、言うまでもなく――この戦場に残されたのは、自分一人だけ。
目の前に倒れている、同じ派閥に属する魔女五人はともかく、遊撃手を任せていた妹、月成
「向こうがどうなっているかは未知数。ただ、常に最低の状況を考えるとすれば、残るは《統率の魔女》と《
ならば、と。浴衣とドレスを足して二で割ったような朱色の和服、その内側に隠されたポケットから、純白の『発動体』を取り出して。
――白銀の光槍を、展開する。
「それなら、二人揃って、この槍で貫くだけ」
《純槍の魔女》――彼女の二つ名だ。
彼女にとっての祖母にあたる魔女が、金色の槍を使っていたという。直接、その姿を見た事はないものの、母から伝え聞いた話だけでも、憧れるには十分すぎる材料だった。
「……来た」
「――
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!! と、周囲は森であるにも関わらず、容赦なく火球があちこちから放たれる。火事の後処理が大変そうだ……と思いつつ、それらを全て避け。
共鳴した詠唱、その根源へと視線を向ける。ピンクのツインテールに、おっとりとした見た目とは裏腹に、思わず呆れてしまうまでの超火力を撒き散らす災害――フェンツ・クラウノウト。
「――ふんッ!」
「ん、そんなっ!」
木陰に隠れたその少女へ、一気に距離を詰め、白い光槍を一突き。パリィ! と、槍の切っ先は、胸元に取り付けられた『記章』を砕く。
この戦いにおいての敗北とは、『気絶』もしくは『記章の損壊』の二つだけ。誰かが命を落とすまで続ける戦いなど、時代遅れも甚だしい。
「さて、あと一人――どうせ純粋な戦闘力では勝てないのです。大人しく出てきなさい、《統率の魔女》」
「……仕方がありませんね」
木陰から、堂々とした佇まいで現れたのは、橙色のショートヘアに、軍服を纏った少女。
ファニーエン・クラウノウト。敵のうち、最後の一人にまで残ってしまった彼女は、しかし二つ名の通り、直接戦闘には向いていないにも関わらず、ここまで残ってしまった。
だが、こちらは《
「大人しく降参するとしましょう。さ、早く胸の『記章』を壊しやがってください?」
どこか怪しいと思いつつ、それを加味しても、《統率の魔女》ではこちらを出し抜く事など不可能であろうとも思っていた。
故に、月成静香は躊躇うことなく、その白い光槍を右手に携えて、一歩ずつ近づいていく。
あと一歩、踏み出せば光槍が届く……そんな位置にまで、足を踏み込んだ――その時だった。
――ビュゴオオオオオオオオオッッ!!
と、地面から垂直に、天へと向かって一本の稲妻が走り――それは、槍を握った少女の胸元に取り付けられた『記章』を粉々に砕く。
稲妻の放たれた地面には、白い光で紋章が描かれていた。
「そ、そんなッ!?」
「確かにあたしは、戦闘力で言えば低い方だと自覚はしてますけどね。それでも、ちょっと悪知恵を働かせる事くらいならできるんですよ。事前に罠を張っておく、とかですね?」
詠唱を文字へと起こした際に、重複する文字排除して、魔術的な一つの記号にまで圧縮した『シギル』を使った、魔術的な罠だった。
かつて彼女の母親も、これと同種の罠に苦しめられた経験があるらしく、その話をもとにして、自分用にチューンナップしたのがこの罠だ。
「……卑怯、ね」
「いくら卑怯だろうと、勝者こそが正義――それが魔女ってもんなんです。最後に油断したほうが悪い、肝に銘じておくべきですね」
白い光槍を発動体に戻し、和服の内ポケットにしまい。同時に取り出したスマートフォンの画面には、金色の点がすべて消えた地図の上に『
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