幻の住人【File1.元軍人】

みと

幻の住人【File1.元軍人】

H28.10.05 / 大雨


今日はやけに飼い犬がうるさい。


窓に目をやると、

たたきつけるような雨と

びしょびしょに濡れている飼い犬。

どうやら外の異常を知らせにきたようだ。


「今日は一段と酷いな。」


雨具をそろえて外に出ると、

飼い犬は、給水タンクへと私を案内した。


外側からは特に異常は見受けられない。

鼻が悪い為、遠くからだと気付かなかったが、

タンクの中の水位が非常に高い上、

水質は黄色く濁り異臭を放っている。


「主様はご機嫌ななめなようだ」


我々には名前も顔も知らない主が存在する。

この主が何者かというのは、我々もよく理解していない。

ただ、この世界は主が作った幻想で、

我々はこの世界を管理・維持する為の存在であるという事は

誰に教えられた訳でもないが認知している。


ついでにいうと、この悪天候や異臭も主のせいだ。

主の機嫌や調子が悪いと今日のような事態が起きる。


その度に我々が対処に追われると言うなんとも迷惑な話だ。


何か起こる度に対処はしているものの、

日を改めて同じような事が起きているのを見るに、

根本的な解決にはなっていないと推測している。


そろそろご自分でどうにかしてもらいたいが

調べ周った結果、主とは意思疎通が不可能であり、

死ぬ以外にこの任務から解放される事はないという結論に至った。


何はともあれ、タンクの水が溢れる前に

雨を止める必要がある。


私は飼い犬を連れて、家の地下室に向かった。

地下室には、主の状態を感知している2つのモニターがある。


この2つのモニターには折れ線グラフが絶えず刻まれている。

参考までに天候が落ち着いている時のグラフは以下の通りだ。


左のパネル:一定のリズム、一定の振れ幅。

右のパネル:規則的な振れ幅で緩やかな山なりを繰り返す。


現在、モニターに映し出されるグラフは規則性が保たれておらず滅茶苦茶だ。

異常時はだいたいこうなる。


ちなみに、我々は主との意思疎通はできないが、

地下室を通して主に光信号を送ることができる。


普段、地下室は最低限の明かりしかつけていないが、

今回のような異常事態の時は照度を最大にする。

そうすると右のグラフだけ記録が止まる。

以前起きた台風は、この対処法で半日を待たずに収まった。


仕組みは理解していないが、

地下室の明かりが光信号のような役割を果たしていて、

主に何かしら影響を与えていると解釈している。


そうこうしてる内に、地下室の照度を最大に設定し終わった。

右のグラフが止まったのを確認し、タバコに火をつける。


やることはやった。

次期に雨も止むだろう。

死ぬまでに、あと何回あなたに信号を送る事になるのだろうか。


そろそろ答えてくださいませんか、主。

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