第3話

「佐々木さんって竹内さんと付き合ってるの?」

給湯室で、坂本めぐみに聞かれた。どうでもいいだろう? 小学生か? と思いながら答える。

「さあ? 何も言われたことないですよ?」

実際何も言われてないのだ。付き合っているのかと問われれば、自分でも本当にわからない。正直、良樹が美香のことをどう思っているかも、はっきりした言葉は貰っていない。

「ふ〜ん。随分と仲がいいからさあ」

「そうなんですかねえ」

美香は、適当に曖昧な返事をしておいた。

「ふんっ」

わかりやすく外方そっぽを向いて、坂本は立ち去った。

「嫉妬? そんなんだから男の人、誰からも相手にされなくなるんでしょ」

馬鹿馬鹿しい。それでまた虐めてくる気? 面倒くさいなあ。そう思った。



 そんな曖昧な関係が5ヶ月ほど続いたある日。

 いつもの英会話教室帰りのファミレスで、良樹がサラッと言う。

「俺、4月からNY支店勤務なんだ」

「え?」

「英会話、結構できるようになったよね?」

「え?」

「ついてきてくれないかな?」

「え?」

「佐々木さんいないと困るんだよね、俺」

「あの、それって、つまり……」

「結婚を前提に、付き合ってもらえませんか、ってことなんだけど」

良樹は真っ赤になりながら、不器用にそう言った。

「……」

美香は固まったままだ。

「あっ、ごめん。無理なら無理って言ってくれていいから」

良樹が慌てて言い、美香の顔を見た。

 美香の目から一粒涙がこぼれる。

「……ズルい。竹内さんはズルいよぉ。なんでもっと早く言ってくれないの?」

ポロポロと涙がこぼれる。

「あ。あ。ごめん。なんていうか、俺、そういうとこ不器用で。ごめん」

良樹は慌ててハンカチを渡した。

「ごめんね。俺の勝手だよね。佐々木さん、モテるし、他に相手がいるかもしれないよね。ごめん、俺が悪かった。忘れてくれていいから」

「違うよぉ」

涙を拭いながら美香は答えた。

「私だって……私だって、竹内さんいないと困るんだから」

「え?」

「もう! NY中のスイーツ、食べ尽くそうね!」



 4月。良樹と美香は、人生の新しいスタートラインに立った。


 そこに、かつての外側だけ美しい佐々木美香はいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美しい人 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画