第8話 夕飯に出よう

 依頼について事前の顔合わせは無く、開始時刻は翌朝だったので、今日はまずは宿をさがして、早めに休むことにした。

「メグはこの街の宿屋に泊まったことはあるか? 」

「いえ、初めてです」


 俺は、ギルドの近くにある宿屋に部屋をとった。 値段は、一泊銀貨1枚。

部屋は2人同じだ。 分けようとも思ったが、メグがこのままで良いと言うし、節約の意味も込めて、同室とした。


「銀貨10枚から、2人分のマント、メグの靴を買って、残りは5枚と銅貨数枚か」

 転生したてで、カレーの材料と調理器具しか持っていなかったが、今朝倒した魔獣の素材をギルドで売ったら、銀貨10枚を稼ぐことが出来た。

 俺の空間収納スキルについては、ギルド職員から「初めて見たよ」と、かなり驚かれたが、一応一般的に存在が知られているスキルのようだった。


「メグの服とかは、依頼から帰ってきたら、きちんとしたのを買うからな、少し待っていてくれ」

 カレー用の水魔法で、洗濯は行ったものの、さすがに今の服は、布に傷みや汚れが目立つので、早く綺麗な服を着せてあげたい。

「そんなリョウリさん、この靴とマントでも十分すぎますよ」

「いや、そこは俺のわがままだと思って聞いてくれ」

 俺がメグの頭をポンと撫でると、耳がふにゃりと横に動いた。

 俺が転生してメグに出会ったのが今朝、街に到着したのがすでに昼過ぎだったわけだが……


「メグ、本当に宿屋に居なくて大丈夫なのか? 」

「はい! 私もリョウリさんと一緒に行きます! 」

 疲れただろうし、俺が一人で夕飯を買ってきても良かったんだが、どうしても俺に付いてくるらしい。


「でもなぁ…… 」

「今朝食べたカレーとリョウリさんの魔法のおかげで、元気っ! いっぱいなんです! 」

 この世界の獣人族は、子供もタフなのかな?

「そうか―― だが無理はするなよ」


 俺とメグは、夕飯と観光――この異世界を知るために、夜の繁華街に出かけることにした。


「夜は静かになるかとも思ったが、飲食店が多いし、この大通りはかなりにぎわっているな!」

「凄いですね、村のお祭りみたいです」

「お祭り? メグの村にもそういう風習があるのか? 」

「はい、年に一度、この街みたいに、沢山の街灯に火をともして、御馳走を食べながら、作物が沢山収穫できるようにお祈りするんです! 」

「へぇー、いいな。 俺の生まれた場所にも、祭りがあったよ」

「そうなんですね」


 メグは楽しそうだったが、村を思い出してか、少しだけ寂しそうな顔をした。

「大丈夫だ、すぐに村まで戻れる! 任せろ! 」

「はい! 」


 耳と尻尾がぴょこぴょこ動いている。 よし、大丈夫そうだ。


 一軒の店から、凄く良い匂いがする。

「明かりも綺麗だし、看板も店も大きい、人も沢山入ってるみたいだし―― メグ、夕飯はここにしようか? 」

「はい! そうしましょう! 」

 

 うむ、獣人の嗅覚もこの店を当たりと判断しているようだ。 さっきから、尻尾の動きが凄い。


 

「こんばんはー! 席は空いてますかー?!  って、おおっと―― 」

 俺が入口から、声を掛けるのと同時に、背後からドンと強い衝撃があり、俺は少しだけ前方によろけた。


「邪魔だ、どけ! 」

 そう言って俺をにらんだのは、見るからに柄の悪い、大男だった。


 なんか、トラブルの予感がする……

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異世界転生した料理好きのおっさん、カレー用に選んだスキルでケモ耳種族を助けて毎日美味しい食事を楽しむ ひたかのみつ @hitakanomitsu

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