第2話

 桜蘭は青紫色の鱗に薄桃色の瞳という可愛らしい龍であった。


 まあ、体は非常に長くて角がある。牙や爪は鋭くてそんじょそこらの妖魔とも戦えるくらいには強くもあるが。

 さて、ルートラ国に桜蘭はたどり着く。たった一人でだが。


(よし、ここで新たな出会いを探すわよ!)


 意気込んで、てくてくと町中を歩いた。が、桜蘭は悪い意味で目立っている。道行く人々が彼女を見ては、通り過ぎていく。それもそのはず、彼女が入った町は人族もちらほらといる所だったからだ。艷やかな青紫色の腰まで伸ばした髪に薄桃色の瞳が印象的な超がつく美少女、しかも見るからに異国風の衣装を身に纏っている。そんな桜蘭に好奇の目を向けないはずがなかった。まあ、桜蘭自身は気にしていないが。

 彼女がしばらく歩いていても、誰も近づいて来ない。さすがに避けられていると桜蘭も気づいた。仕方ない、どこか服屋にでも入るかな。桜蘭は道を歩く一人の青年に声を掛けた。


「……あの、ちょっと。訊きたい事があるのですけど。よろしいでしょうか?」


「はい、何でしょう?」


「この近くに、衣類を扱うお店はありませんか?」


「衣類、ですか。ありますよ。確か、この大通りを真っ直ぐ歩いて。向かって右側、今あるお店から四軒目辺りに衣服問屋となりますね」


「分かりました、ありがとうございます」


 桜蘭が深々とお辞儀をしたら、青年は慌て出した。


「……なっ、お嬢さん。そんなにお辞儀はしない方がいいですよ」


「え、そうなんですか?」


「はい、ルートラでは浅く一礼するくらいが普通です」


「分かりました、改めて。ありがとうございます、お兄さん」


 桜蘭は浅くお辞儀をするだけにして、青年と別れた。衣服問屋を目指したのだった。


 桜蘭は言われた通りに、大通りを真っ直ぐ行きながら、向かって右側に視線を巡らした。

 確か、さっきのお店から四軒目だったか。立ち止まり、看板をよく見る。洞天国とルートラ国は共通言語を使用していたはずだ。桜蘭はその言語で『衣服問屋』とあるのを確認した。


「あ、ここね」


 呟きながら、お店の入口に向かう。引き戸を開けたのだった。

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天の龍 大地の竜 入江 涼子 @irie05

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