天の龍 大地の竜

入江 涼子

第1話

 とある異世界に、天の龍が住む国があった。


 その国は洞天とうてん国という。洞天国の北部に、彼らは住んでいた。他には人族もいたが、天の龍一族は彼らとそれ程に交流を持っていない。人族との婚姻など以ての外だ。

 そんな天の龍一族の一員に、桜蘭おうらんという若い女龍がいた。彼女は人族で言えば、十八歳程になっている。いわゆる適齢期といえた。


「父さん、母さん。私のお相手はこの国にいるのかしら?」


「……桜蘭、またそんな事を」


「そなたは何を言うの?」


「だって、どこを探したって。私好みの男龍がいないのよ!」


「いやまあ、お前好みの男龍と言われても。どんな奴だったら良いのだ?」


 父が桜蘭に問うた。待ってましたとばかりに、彼女は答える。


「私好みの方は、まず。なよなよしていなくて、腕っぷしが強くて。目つきがキリッとしていたら尚良いわ。それでね……」


「……桜蘭、そなたを好きな男子おのこはいるにはいるでしょう。例えば、隣の村の陽蘭ようらん君とか」 


「えっ、陽蘭?!あいつは嫌よ、すぐに私を睨み付けてくるから」


 桜蘭はそう言って、本当に嫌だとばかりに首を横に振った。


「まあ、そなたはそう言うだろうと思ったわ。仕方ない、桜蘭。隣国に行ってみたらどう?」


「え、隣国に?」


「そうよ、そちらなら。桜蘭の好む男子もいると思うわ」


 母が言うと、桜蘭は俄然に行く気が起きた。隣国は確か、ルートラ国と言ったか。そちらに行けば、自分好みの相手が見つかると桜蘭は夢見たのだった。


 数日後に桜蘭は旅支度を整えた。ルートラ国に行くためだ。桜蘭は人型のままでは、色々と不都合があるからと龍型に姿を変えていた。口に荷物をくわえて、空を飛ぶ。上空にいると地上の物が小さく見えるから、不思議だ。


(あ、確か。こちらはルートラ国と洞天国との境目だったわね)


 桜蘭は頭を地上に向けた。少しずつ、地面へと近づく。鼻先が擦れ擦れになったところで人型に戻る。落ちかけた荷物を両手で受けとめ、足を着地させた。


「……よし、ここを越えたら。隣国のルートラ国ね!」


 桜蘭は意気揚々と歩き出す。が、彼女は知らなかった。ルートラ国にて思わぬ出会いをする事をだ。

 ピチチと空を小鳥が飛び交った。

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