事故車

藍田レプン

事故車

「事故車だから、という理由ではないと思うんですが」

 と20代の男性、Iさんは語りだした。

「免許も取って車を買いたいな、と思っていたところに友人から買い受けたんです。そいつとはよく一緒に遊んでいて、その車も良く乗せてもらっていました。買う時にこの車は以前に一度接触事故を起こして、後部のボディーが少し凹んでしまったので修理した、と言っていましたが、そこは綺麗に修理されていて、私にはどこが修理箇所なのかもわからないくらいで」

 ところがその車を買い、運転するようになってからIさんは奇妙な幻覚を見るようになった。

「運転中、自分の車が電信柱に激突したり、横転したり、派手な衝突事故を起こしたり、猫を轢いてしまったり……そういう幻覚が、運転中突然見えるようになったんです」

 怖くなったIさんは、友人にこの車は過去にもっと大きな事故を起こしているんじゃないか、何か動物を轢いたり曰くのある場所に行ったりしているんじゃないか、と聞いてみたが、車は友人が新車としてディーラーで購入したもので、最初に話した軽い接触事故以外に事故歴は無いという。その接触事故もお互いにボディがへこんだ程度で怪我人もなく、相手も近所の人だったので穏便に事故対応も終わっているらしい。

 ではこの車に乗っている時自分のような幻覚は見ていないかというと、それも無いという。

「でも気味が悪くて、結局その車は三か月ほどで売ってしまいました。新しい車にしてからは、幻覚も見なくなりました」

「つまり、現実的な解釈をするならば、あなたが車に対して『事故車』という先入観から来る不安が払拭できずに、潜在的な恐怖心から幻覚を見てしまった、ということになるんでしょうか」

「ええ、そうかもしれません。でも少し気になることがあって」

 後で調べてみたら私が幻覚を見た場所で、幻覚と同じ事故を後日別の車が起こしているんですよ、全部。

「偶然……なんでしょうかね」

 そう言うと、彼はその後黙り込んでしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

事故車 藍田レプン @aida_repun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ