破裂する聖人。君に届けられなかった想いが散らばっていく

とみっしぇる

心の欠片

陽介18歳。彼は高校に入って、ずっと好きだった女の子と両思いになれた。


だけど気持ちは明かせない。


今は、一緒に異世界にいる。


思い人の夏子、夏子の幼馴染み亮太&奏カップルの4人で下校して、駅のホームにいた。


いきなり、足元に魔法陣。青い光りに包まれて4人そろって異世界の王城に召喚された。


「ここは・・」


「この世界をお救い下さい」


気が良い亮太が美人のお姫様に即答。OKした。


アホな訳ではない。


鑑定を持っていた亮太によると、その国はガムデン王国。周辺国も魔王の脅威にさらされていた。


勇者亮太。賢者奏、聖女夏子、そして陽介は聖人。

召喚されるときに、強力スキルをもらっていた。


「勇者リョウタ様、カナデ様、ナツコ様、ヨースケ様。よろしくお願いします」


彼らへの待遇は良かった。


文明は産業革命の直前くらい。値は張るものの現代日本人に合う食べ物もあった。


王城の人間たちは、ナツコとヨースケのスキルについて議論した。

なぜ、聖女と聖人の同種職業が2人いるのかと。


すぐに疑問は解けた。ナツコは回復、結界のエキスパート。


陽介は攻撃力が高く、死霊の浄化もできるホワイトフレイムが使える。プラスして経験値10倍のスキル持ち。


闇属性が大半を占める魔族の天敵になる。


さらに「禁断のフレイム」という使って欲しくない自爆スキルまであった。




4人の旅が始まった。序盤の2週間は経験値10倍を持つ陽介のスキルが有効に働き、3人をリード。


3か月もすると晩成型の勇者と賢者が追い付いてきた。


余裕が出て来ると、陽介と夏子は、お互いのことを考える時間が増えた。


亮太と奏は恋人同士。夏子は2人の幼馴染みで、亮太が好きだった。


亮太は180センチと背は高いが顔も普通。だけど、とても優しい。

幼馴染みの女子2人に惚れられていて、結局は奏を選んだ。


奏は細身で目が大きい美人。165センチ。

対して夏子はグラマーで可愛い系。160センチ。


陽介174センチ、フツメンは夏子の気持ちを知っていた。

だから日本にいた頃に、夏子に深く踏み込めなかった。


亮太と奏が付き合い始めたのは1年前。その前に陽介は夏子に好きだと言った。


だが、夏子は亮太が好きだと明かした。直後に亮太と奏が付き合い始めた。


傷心の夏子を陽介はなぐさめた。心の隙間に付け入ることなく誠実だった。


次第に2人の気持ちは近くなっていった。


◆◆◆◆

さらに半年後、とうとう魔王城に潜入した。ここは都合がいい世界。魔王の存在だけを起点に魔王軍が作られる。


つまり魔王さえ倒せば、数百年は人類は安泰だ。


魔王城の突入前夜。夏子は陽介と向き合っていた。


夏子は常人に比べたら、はるかに強い。オーガを素手で倒せるレベルだ。


ただ勇者パーティーにおいては力が劣る。その夏子を陽介が庇い続けた。


陽介は日本にいたころから、夏子を助けてくれた。


異世界に来ても、陽介は夏子に対する接し方が変わらない。献身的だ。


夏子は、とっくに惹かれている。実は異世界召喚の前から、陽介を好きになっていた。


しかし、亮太を好きだといってしまった手前、素直な気持ちを言えなかっただけ。


それに、夏子だけでなく4人とも浮かれてはいられない状況にあった。


「陽介、明日、生き残れたら話があるの・・」


「うん、俺も。楽しみは後に取っておく方だから、戦いが終わってから話そう」


さすがに、陽介も鈍感ではない。


人間の気持ちは変化する。陽介は、すでに夏子が自分を愛してくれていると確信していた。


夏子もまた、気持ちが通じあっていると思った。嬉しかった。


だからお互い、戦いが終わってから、気持ちを確かめ合おうと思っていた。


勝算はある。


ここまでの戦いで、ピンチに陥ったことはない。


最悪の場合、陽介が『禁断のフレイム』を使うという。


それは避けられそうだ。


夏子が、鑑定が使える亮太に聞いていた。禁断なのは、陽介が魔力を暴走させて自分を破裂させて、広い範囲を爆発させるから。


範囲もぴったり1キロと広い。


怖いのは陽介への影響。


亮太の鑑定では、陽介は復活できる。リスクはないのかも知れない。あるいは、身体のどこかを失うのかも。予測がつかない。


生き残れても、五体満足の保証はない。


危険なスキルを、これまでも使う必要がなかった。4人の力は強い。すでに、魔王軍四天王を余裕を持って簡単に倒している。


これならイケる。


夏子だけではない。奏も亮太も、そして陽介も何とかなると思った。


◆◆

今、4人は魔王と対峙している。


結論から言えば、まったく歯が立たない。


魔王は、四天王など比べものにならなかった。


魔王は、攻撃をわざと受けた。


勇者に力を集めて放った究極奥義も、たった今、弾き返された。


「勇者ども、もうネタ切れか。出せるものは、みな受けてやるぞ」


陽介が呟いた。


「あーあ、しゃーないか」


彼は、前に出た。


「打ち合わせ通り、3人で逃げろ亮太」

「いや、ダメだ。陽介」


「奏のお腹の赤ちゃんも、敗戦の巻き添えにする気かよ。大丈夫。俺は戻って来るよ」


亮太は言葉に詰まった。


陽介は予測がついていた。

「なぜ、勇者の究極奥義より強そうなスキルを自分が持っているのか」


普通に戦っても、自分達は魔王に勝てない。だからだ。


時間はない。亮太を促し、外に出した。


別れ際、夏子に言った。「夏子、お前と出会えて良かった」


その、愛おしそうな目を見て、夏子は嫌な予感がした。


「・・陽介」

「大丈夫、夏子。俺は爆発しても復活できるから」


心の中で言った。夏子好きだ。だけど、さようなら。



やがて、魔力感知でスキルの範囲外に3人の友達が去ったことを確認した。


「さあ、人間よ。最初の生け贄は貴様だ。そのあと勇者を追う。これから暗黒時代の始まりだー!」


「待たせて悪かったな、魔王」


陽介にあせりはない。



「夏子、幸せにな・・」


スキル発動。


魔王城が白い光に包まれた。


そして幾筋もの流れ星が、魔王城から飛び出した。


魔王城と、魔王軍幹部が居た場所には、地面がえぐり取られた跡があった。


その穴に決壊した川から水が流れ込んだ。


あっけないくらいの幕切れで人類は救われた。


飛び立った幾多の星を目で追いながら、夏子は呟いた。



「陽介はどこ・・」


えぐれた穴の中に水が流れ込み、湖ができていた。

その中央が光った。


光は3つ。


さっき飛んで行った流れ星と同じ輝きかたをしている。


夏子は、さっきよりも嫌な予感がしている。


水面に浮かんだ光は、3人の方、いや夏子に向かって、ゆっくりと流れてきた。


そうして夏子の胸に吸い込まれ、光るのをやめた。


「あ、ああっ、陽介!」


星に見えたもの。それは陽介の記憶の欠片だった。


1つは亮太と陽介が話す、「禁断のフレイム」の秘密。


禁断のフレイムとは、陽介の精神力を使って作動させるものだった。


そして陽介の心は、言葉通りに砕け散る。100の破片となって四散する。


「聖女が、聖人の心の破片に近づけば、さっきの3つの破片みたいに・・」


泣きながら亮太が言った。


星の欠片の、記憶の中の陽介は言った。


『聖女が100個の欠片を集めれば、聖人は復活できるらしい』


しかし、その後に続けた。


『もし、俺がスキルを使ったとき、夏子には俺を探すなって言ってくれ』


欠片は、どこに飛んでいくのか分からない。集めきれる保証もないものを探さないでくれ、と・・


今、拾えた3つの欠片は水に浮かんでいた。


次の欠片を探す宛もある。しかし、97個となると、揃うのは、いつになるのだろうか。


『俺を復活させようとしたら、きっと、何年もかかる。それより、俺なんか忘れて幸せになってくれって夏子に伝えてくれ。もしものときは頼んだぞ。亮太』


夏子は泣かずにいられなかった。


2番目の欠片は1年前の記憶。


自分を好きだと言ってくれた。それを断っても、自分を好きでいてくれた。陽介の切ない想いが詰まっていた。


3つ目は、ついさっき。


陽介は、自分の実質的な死を覚悟した。


夏子に好きだと言いたかった。

夏子と一緒にいたかった。

夏子に、もっと触れたかった。

夏子に幸せになってくれと願った。


そして・・


夏子にさよならと、心の中で言った。


◆◆◆


勇者パーティーは凱旋した。


しかし帰ってきたのは、勇者リョウタと賢者カナデのみ。



聖女ナツコは旅立った。


陽介の心の欠片は、残り97個。聖人と繋がった聖女夏子にだけは感知できる。


次の欠片は西にある。ただ、それだけが分かる。


何キロ先にあるのかも分からない。近寄れば見つけられるのか、それすら分からないと。


それでも探す。


必ず、陽介を生き返らせる。




必ず、陽介に好きだと言う。



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破裂する聖人。君に届けられなかった想いが散らばっていく とみっしぇる @kyontama

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