もう二千年前の俺じゃない

「――――ほっほっほ。偉人たちよ。このワシも忘れてしまっては困りますな!」


「うおっ!」

「なんだこのババアは!」


 と。

 俺が呆気に取られている間に、今度は別の助っ人が駆け付けてくれたようだ。


 当代最強の冒険者――エスリオ・ディスティーナ。

 還暦を超えたとは思えぬほどの豪快な斧裁きで敵陣を荒らしながら、彼女は俺たちのもとへと走り寄ってきた。


「エスリオ……。来てくれたのか」

「むろんですじゃ。さっきまで別件の依頼をこなしていたゆえ、到着には時間がかかってしまったがの」


 そう言いながら、エスリオは無数の《魔神再誕教団》に目を向ける。


 そしてもちろん――今もなおおぞましい雄叫びをあげている大魔神エクズトリアも。


 ……はは、本当にすごいメンツだよなこれ。


 元勇者、神の力を授かったヒーラー、当代最強の冒険者、世界一の名匠、大賢者。

 ここまでの人物が一か所に集まったのだ、さすがに負ける気がしない。


(おいロアルド。誰だこいつは)


 ふいに小声でそう話しかけてきたのは、ザバル・ディスティーナ。


(俺と同じ斧使いのようだが、おまえの知り合いか?)


(なに言ってんだ。おまえの子孫の嫁だぞ)


(…………マジかよ。とんでもねえ家系になってんじゃねえか)


(フッ、なにを言っているんだい君たち。子孫を残せるだけ素晴らしいじゃあないか僕なんか生前はまったく女の子に見向きもされずにそりゃあ寂しい思いをしたんだよ毎晩毎晩ひとりで自分で慰め続けてかと思ったら死後に大賢者とか呼ばれてて評価されるのが遅いんだよ!)


((うるせえ。黙ってろ))


 ムラマサの一人語りを、俺とザバルが同時に制した。


 ……懐かしいな。

 このやり取りもまた、二千年前に何度も交わしたものだった。


 明らかに緊張する場面なのに、どこまでもマイペースというか……。まあ、それが俺たちらしいか。


 隙を見て突っかかってくる構成員もいるにはいるが、エスリオが斧で容赦なくぶっ飛ばしてくれている。文字通りの形勢逆転だった。


「ふん。しょせんは無駄な足掻きよ」


 先ほどまで勝ち誇った笑みを浮かべていたリーダー格が、つまらなそうにそう言った。


「いくら過去の偉人が集まったとて、こちらの教団員も精鋭中の精鋭。たかが数名集まったくらいで、切り抜けられると思うなよ」


 その言葉を皮切りに、構成員たちが一斉に戦闘の構えをし始めた。


 剣士タイプが前衛、魔術師タイプと支援タイプが後衛。

 それぞれうまく陣形を組んでいるのが、ここからでも見て取れる。こちらにも頼もしい仲間が大勢増えたが、かといって到底油断ならないのは言うまでもないだろう。


「ふふ、なにをそう心配そうな顔をしているんだい」

 考え込む俺に向けて、ムラマサが気丈な表情でそう言った。

「安心したまえ。僕もザバルも、当時と遜色ない力を発揮できるようにしておいた。たしかに連中は強そうだけど……あの婆さんと三人で戦えば、なんの問題もないよ」


「ムラマサ……」


「だから君は、ユキナさんと二人で戦ってくるといい。史上最悪の化け物――大魔神エクズトリアと」


「…………」


 まあ、やはりそれが最善の戦い方になるよな。

 俺たちが生きて帰るのももちろん重要だが、もうひとつ忘れてはならないのが、帝都にこれ以上損害を及ぼさないことだ。


 その点においてはやはり、五十名もいる《魔神再誕教団》に人員を割くのが最適解だろう。


 仮に人質でも取られてしまったら、それはそれで厄介なことになるからな。


 そして大魔神と対抗するにふさわしい人物といえば――因縁の相手たるこの俺、ロアルド・サーベント。

 そして俺をうまくサポートしてくれる、ユキナ以外にいないだろう。


「ユキナ、いけるか? 言うまでもなく、今までで一番苦しい戦いになると思うが……」


「うん、もちろん……!」

 俺の問いかけに、ユキナはなんと即答した。

「まだまだ未熟者の私だけど、そんな私でもできることがあるなら……全力で頑張る!」


「そ、そうか……。その気概はありがたいが、あんまり無茶はすんなよ?」


「わかってる。でもあの大魔神は……私が生み出しちゃったものでもあるから……」


「…………」


 そうか。

 そうだったな。


《魔神再誕教団》の連中が言うには、俺たちへの深い憎悪が、ベルフを大魔神へと変化させたらしい。


 つまりこの戦いは、あの追放劇に端を発しているとも言えるわけで……。

 その意味において、ユキナは責任を感じているのかもしれないな。


「……わかった。それなら止めはしねえ。だが危険を察したらすぐに逃げろよ。俺が真正面から戦うから、ユキナはサポートしてくれればいい」


「うん、オッケー!」


 そう言って決断をする俺たちに。


「フフ……。良かった。これならもう、僕たちが必要以上に出しゃばる必要はないか」


 ムラマサがふいに、そうひとりごちた。


「なんだ? なにか言ったか?」


「ああ、いや。なんでもないよ。……いやぁ童貞卒業羨ましいねえ! まさかロアに先越されるとは!」


「……なに言ってんだよ、おまえはよ」


 つーか、なんでこいつがそれを知ってんだよ。

 俺とユキナが恋人関係になったのは、ムラマサの思念体の出会った後のはずなんだがな。


 ――まあいい。

 色々と気にかかるところはあるが、それはいったん後だ。

 脇ではザバルとエスリオが戦闘に入っているし、大魔神も俺たちを標的に定めたようだ。虚ろな瞳で周囲を見渡しつつも、俺に攻撃する機会を伺っているように思える。


 積もる話はあとにして、俺たちは今この戦いに集中しなくては。


「ゴァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアア‼ コロス、勇者ろあるどは殺す……!」


 と。

 痺れを切らした大魔神が雄叫びをあげ、さらに自身の魔力を高め始めた。


 しかも心なしか、知性も戻りつつあるっぽいな。


 さっきまでは叫び声をあげるだけの化け物だったのが、少しずつ言葉を話すようになってきている。俺は魔法にはあまり明るくないが、時間が経つにつれ、自我が戻ってくるのかもしれないな。


 ――二千年前の俺は、たったひとりで大魔神に挑みかかった。

 ――ザバルやムラマサを危険な目に遭わせたくなくて、たった一人で大魔神と戦った。


 その代償として、俺には深い呪いが課せられることになったが――。


 今はもう、一人じゃない。

 ユキナやエスリオはもちろんとして、こうして過去から友人たちまで駆けつけてくれた。


 負ける理由は万に一つもない。

 あってたまるものか。


「いくぞユキナ! 俺たちの全身全霊を、あいつにぶつけるぞ!」

「はいっ!」


 かくして、二千年の時を経た俺たちの最終決戦が幕を開けるのだった。

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真の実力を隠している世界最強のおっさん、親友が冒険者パーティーから追放されたので自分も抜けることにした ~後で「二人とも戻ってきてぇえ!」と泣きながら土下座されるけどもう遅い~ どまどま @domadoma

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