第5話 突然の終焉と新たな門出
日常が非日常となるのはいつだって突然だ。
正確には予兆はあるのだろうけど、気づくことなんて出来やしない。
会社や学校で上手くいかない時だって、実際には体調が良くなかったりするのに自分では気づかないふりして何か理由を作っている。盲目的に自分を見失うことは、自分では気が付かない。
それは閉鎖都市においても同じだ。
──ウトウトしている男のポケットラジオからニュースが流れる。
〈速報です。今朝方、政府官房長官の
寝台列車に揺られている。2段ベッドが対を成して1つのブースとなっている、よくあるタイプのものだ。車内は空いていて、上段2つは空席となっている。
微睡む私に桜は温かい紅茶缶を差し出す。
「先輩は今回のこと知っていたんですか?」
「なんの事かしら」
「この都市が開放されたという事ですよ!住民はしばらくは引き続き軍政によって統治されますけど次期に民主化されるんですよ。無血開城といわれているように 不思議すぎますって」
揺れる車内の明かりは22時になると消され、フットライトだけが光る。
空いている車内の至る所で仲間とおぼしき大人たちがくつろいでいた。
「そうね。何も知らないのもかわいそうだし教えるよ」
話は1週間前になる。
内部と外部との橋渡し役の大将と呼ばれる男に呼ばれて私は深夜の公園へと来ていた。大都市が見下ろせるそこで、彼は自身が引退だと言った。だが、同時にこの都市における存在意義が失われつつあるとも明かした。
それは非科学的なもので、本来漫画や小説で書かれるような「魔法」のような物を研究していた実験施設の閉鎖によるのだと言った。
いくつもある秘密都市のなかで、ここW9は魔法の実験に必要な原材料、薬品が充実していた。私達諜報局の存在が目立ってきた中で、インターネットから隔離したこの都市の政策が失敗であると気づいた上層部は現状を妥協し、市民の反乱を抑えようとしていたのにもかかわらず意図せずに実験に関する守秘義務を履行できなくなる可能性を助長してしまった。
そう、外部からのハッキングと内部からのハッキング。
これは愚かなまでにそれまでのイントラネットに依存していたツケがでできたかwのようだった。
情報が流れてしまった以上、証拠を一般人や敵に見られないように設備や魔法少女・魔法士をバックアップで温存していた都市へと移動させた。できない物や拒否する者たちは即時処分した。
───そうだったんですね
桜は、そう囁くように応えた。
「彼らが、場所を変えるのであれば私達もついて行くだけ。だから、私達(諜報局)は、国内の全ての閉鎖都市に情報網を築いている」
今回のような事があれば、そのたびにリストが更新され、いずれは閉鎖都市自体が無くなるだろう。そうなれば、本当に自由になるのだろうか。存在意義を私は失ってしまうのだろうか。
「嫌な事ばかり考えてしまうな」
そうぼやいてしまう
───あぁそうだ!私、さっき駅員の人からプレゼント貰ったよ 乗車記念だって!!
空気を変えるという意思が彼女からは溢れていた。
「そう 何を貰ったの?」
「それが箱に何も書いてないんです。振っても軽くカラカラ 鳴るだけで」
手のひらサイズの小箱を桜が開けようとすると箱からは甘くて重い香りが溢れ出てきた。
中にはひと粒のチョコレートと、1枚のメモがあった。
チョコレートを口にふくみ、メモを読む桜は次第に深刻そうな表情で私に尋ねた。
「局長からだった。メモには私が本部に帰り、以降の職務は一人でやれとの事です」
突然、だが決してありえなくもない日常の中だというのに 彼女の心は揺らぎ困っていた。
「先輩は知ってたんですか?!」
首をNOと振る。
驚き、信じたくないという彼女に私は抱きついた。
「桜。別れはいつだって突然なのよ。でも、死に別れでは無いのだから大丈夫よ」
ちなみに一粒のチョコレートが手紙と一緒に入っていたというのは、一時的な決定であるという意味だったりする。チョコレートが風味が落ちやすく、またカカオバターが劣化するとブルームになりやすいことからきている。
なぜ、次の都市では私一人が活動することになったのだろうか。皆目見当もつかない。
だが、例えば 群れになる事で危険に侵されてしまうとか 個が組織としての集団であるとした都市だった場合 複数人いたら怪しいとか... 考え始めたらきりがない。
「桜? その手紙には続きがあるんじゃない?」
はっとした様子で読み進めると彼女は、荷物をあわててまとめ始めた。
「次の停車駅で降りて、折り返せ と書かれてます」
あと、数分で次の停車駅に着く。一方で私のモバイル端末には局長からのメッセージが届いていた。文面は桜のものと同じであるのと同時に、彼女には都市に残り残務処理をしてもらうこと そして、私が次の都市で死ぬ可能性が高いが故に桜を置いていくのだと書かれていた。
──君にはこの指示に背くことなどできないだろう。普通を知らないのだから、否。我々に飼われているのだから。
「桜...? 私ね、またあなたに会うことがあるのであれば、その時の私はワタシでは無くなっているかもしれない。だからね」
だから
「その時は私に戻して欲しいの。可能であればね」
この後、彼女は何か言っていた気がする。涙を流して必死に...でも、私は駅のホームに彼女と荷物を見送ると何も言えずに、引き攣った笑顔で手を振った。
「また会えるよ ハイバイ」
走り始めた列車は深夜の郊外を走り抜ける。
行く先はどこだっただろうか。
A close the gate. 東雲夕凪 @a-yag
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