第4話 工業都市

凪咲は深夜の都市を見下ろしていた。


そこは学研都市を装うこの秘密都市の末端にある公園のベンチだった。


通路を照らすライトが夜花を鮮やかに彩り、近く遠いビル群の消えない灯りと伴に世界は鼓動し続けているのだと云っている。


ー私ね、深夜のとした空気がとても悲しい気分にさせるの。自分という存在が馴染めずに一人ぼっちなのだと言われているようで。


思い返せば私は望んでもいない能力を持たされ育てられた。そして、活かすも殺さず生温い日常を過ごしている。唯一、友達が居るのが救いだろうか。


「待たせたな」


背後から聞こえた声に私は気づけば流れていた涙を拭って応える。


「いいえ。待ってないですよ 大将」


「大将か...それもあと少しさ。定年退職したあとは本当に居酒屋を開こうかな」


彼はこの都市唯一の外部に情報を容易にもっていける存在だ。故にこの都市の諜報局員は彼を父のように慕う。


だがこの都市においてもネットが解放される事になり存在が不要となったのだった。


「勘の良い君のことだ。閉鎖都市内でのインターネットの開放が意味する事を理解しているのだろう? イントラネットで管理していた昨今でさえ、一部の者はインターネットの存在を知っていた。日に一度だけ閉鎖都市全体のネットを管理しているサーバがアップデートなどの為に外部と接続する。そのタイミングを図って処罰の対象となるリスクを犯しても外の世界に繋がりたがるのだよ」

私はため息をついた。

「えぇ。私が居た高校でもインターネットの存在を知っていた生徒がいたわ。彼がアクセスする日も近いと思っていたけれども まさか先に解放されるとは思ってなかった」

男はタバコを取り出して火を付ける。

「わるいね、ニコチンが無いとやってられないんだよ」


刹那。


公園の街灯が足元の草花を照らす中で、少女は男から最後の伝達事項を聞かせられた。


「この都市は用済みとなったのだよ。多くもの犠牲はクローンを造る材料でしか無く、理由では無かった。我々がその事実にたどり着いたときには、軍部は他方の閉鎖都市へと機能を移していた。我々の存在を感知していたのだろう。本来の目的、それこそが判明した今 私達は証拠を集め、実行部隊による作戦の阻止で本来のこの国を取り戻せる」


「本来の目的とは?」


タバコの煙が濃くなってゆく。霧のようにあたりが霞む中で男は続ける


「魔法少女の育成。正確には無駄死しない兵士と人間では扱いきれない兵器の開発運用」

「はい?」


「魔法少女の育成」


遠くを見る男。それは私の反応が至極真っ当であると悟った様子だった。


「君のクラスにもいたはずだ。魔法士だとか魔法少女と呼ばれている者たちだ。ゾンビを倒すとか言われていなかったか?」


「えぇ確かにいたわ。でも大半が犠牲に無ったといって1名しか残っていなかったけど」

「それは半分事実で半分嘘だ。魔法士や魔法少女たちは科学では説明が困難である現象を起こす改造人間だ。DNAレベルで合成された人間もどきとも言えるな。そして、彼らはゾンビと戦っているのでは無い。制御不可能と無った魔法士・魔法少女達の処分や都市解放をしようとする組織の構成員を処理しているんだよ」


でも、そんな彼らは気がつけばいなくなっていた。


「突然さ。まるで申し合わせたかのように何も無かったとなっているのさ。洗脳でもされているのではないかというまでにね」


「わたしたちのボスは君に異動を申し付けたいようだ。君の端末に詳細を載せたから、明後日の夜行電車で向かいなさい」


吸い終わったタバコを携帯灰皿に入れて男は余韻に浸っていた。


「私は残務処理をしなくてはいけない。この都市は学研都市と工業都市としての記憶を頼りに普通の都市へとなっていく。今日までの記憶や記録は書き直される。私は、諜報局のデータベースに正しい今の情報を記録する。全てがリセットされたときのネガティブリストにする為にね」


そう言うと男は立ち上がりゆっくりと帰路についた。

「今までありがとうな じゃあな」

「さようなら」


私は男が去った後の公園でのんびりと景色を眺めていた。家に帰れば先に帰っている桜が寝ているだろうと思いつつも、今日は寝れない事を悟っては深く溜息をついた。


次の都市での私は何者を演じるのだろうか。


私はいつになったら自由になるのだろうか。


答えなんてわからないのに考えてしまう。無駄であるとわかっているのに。



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