第7話 そして「ざまぁ」が始まる



 文化祭を終え、9月の下旬、また生徒会の選挙が始まった。


 ほぼ、人気投票となる生徒会長。

 その候補に、「嶋野星羅」の名前が有ったので、思わず「悪い笑み」が浮かんだ。


 バレー部の新部長となった俺は、


 絶対に逃げられない場面、

 先輩のサポートも望めない立場、

 部活予算の折衝会議決戦場で、どんな言葉を掛けるか、


 ようやく「王手」が届いた気がした。


 *


 しかし、異様な結末に、期待が拍子抜けすることになる。


 前代未聞の「得票数の25%以上に無効票」が出て、再選挙が行われることになったのだ。


 生徒の25%以上だと、総数約900名では最低約225名か。

 それだけの人数に悪印象であった『浮気女』は、おそらくショックで、立候補を取り下げていた。


 ……俺の鉄板ネタは、俺のいない場所でも猛威を振るい、オチの場所が延長されていたようだ。


 教師の間でも混乱が走り、二股浮気とストーカー冤罪、真偽不明の誹謗中傷が水掛け論となるため、これ以上の追求を放棄し、選挙で言う「民意を問う」ということでお茶を濁すこととなった。

 候補者が不在の民意というものに、俺は笑いが止まらなかった。


 再選挙で俺はもう一度、同じ名前を書いた。

 俺の弁当係は、俺の推しどおり、見事に生徒会長に進化した。


 ーーーそして紹介が遅くなった。生徒会長 兼 永久弁当係 即ち 俺の彼女、


 大和萠在やまとめありは、


 推薦・指名の権利を使用し、

 充分な活動経験・実績を持ち、

 生徒会長候補に一度は名乗りを上げた、


 嶋野星羅を副会長に任命した。


 ……ここまでたどり着いて、


 俺の恋愛は、実はまたしてもステルス交際であったが、

 生徒会長の「当選ご褒美の報酬」として、オープンとなった。

 それはみんな知ってた。解せぬ。イチャイチャしてやる。


 *

 **

 ***


 いま、万感の思いで、卒業式の送辞を読む生徒会長俺の彼女を見つめている。

 きっとあの舞台に立ちたかったであろう人物は、会場外の裏方に回って働いている筈だ。


 元・副会長のイケメン先輩は、


 手塩にかけて鍛え上げ、惚れさせ、

 露悪的・・・に振る舞い、俺のヘイトから身を隠し、

 長く見守ってきた最愛に、自身の卒業式で、

 送辞の大舞台に立って欲しかっただろう。


 答辞はもちろん、元・生徒会長の役目なので、

「お呼びじゃない」のだが、まぁ。


 ……ここだけの話、最初の玄関扉の邂逅で、

 非常階段にセットして西日を反射してたスマホに、

 無駄な大声と顔までハッキリ写った動画が残ってるんだよなぁ。


 ストーカーって疑われてたんだ、それくらいの自衛は当然するよ。

 

 今からでも「ど う し よ う か送辞ですと拡散するか」悩む。


 卒業後なら、動画に対する反論の場を作ることも、出来ないだろうしな。


 *

 **

 ***


 この先のもう一年。俺は星羅と関わるつもりが無くなった。


『浮気女』と『選挙崩壊せんきょぼうがい』のダブルネームを轟かせる敗者に、

 もはや顔を合わせても、かける言葉が何もない。

 俺の生徒会長弁当係が、ただ便利に使うだけだ。タダ弁。


 推薦がかかってる。ちゃんと仕事しなければ「副会長」は罷免。

 イケメン先輩の大学には、難関の入試を正面突破で挑まなければならない。

 ……噂が考慮されてるなら、そもそも推薦されないか?


 そして成績優秀な俺と生徒会長も、同じ推薦の枠を競うライバルとして頑張ろう。


 とりあえず「歴代最強チーム」と化したバレー部で、どこまで行けるか試そう。


 動画のPRなどクソ食らえだ!スポーツはやっぱり自分が楽しんで、結果が出るのが最高だよ。


 *


 3年生の新学期、一人で用意する忙しい朝にインターフォンが鳴る。


 ……モニターに映る星羅が居た。



 告げるべき事実。そして言葉は、



 扉の先へはもう届かない


 ―――――――――――――――――――――

 これにて完結です。

 初作品に☆までつけていただいて、本当にありがとうございました。


 きっかけは年末、正月とお笑い番組を見てて、「緊張と緩和の笑い」をNTR作品の絶望シーンに入れたくなったからです。


 あと、ヒロインの会長選の結果は、リールの比較評価とは無関係です。

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