エスパー真理亞
滝口アルファ
エスパー真理亞
真理亞(まりあ)は、
引きこもりの20歳(はたち)の女性である。
中校時代にイジメに遭ってから、
ずっと引きこもっている。
そんな真理亞には秘密があった。
それは、
彼女がテレポーテーションの能力を持つ
エスパーだということである。
真理亞は自分でも、
(宝の持ち腐れだな)と、
うすうす感じていた。
ある日のこと。
真理亞が住んでいる国の北部で、
震度7の大地震が起きた。
引きこもりの薄暗い部屋の中のテレビで、
真理亞はその惨劇を見ていた。
テレビの報道によると、
孤立状態の地域がいくつも出来ているらしい。
真理亞は思った。
(このまま引きこもっていても埒があかない。
いまこそ私のこのテレポーテーションの能力を使って、
被災者を救援できないものかしら?)と。
しかし、
その勇敢な決意には1つの大きなリスクがあった。
同じくテレポーテーションの能力を持つ母から、
「1回テレポーテーションするたびに、
1つ年を取るのよ」と聞いていたのだ。
それでも真理亞は、
ここぞとばかりに命懸けで、
テレポーテーションを使って救援物資を運んだり、
被災地の子供たちを連れ帰ってきたりした。
一回のテレポーテーションで運搬できる重量は、
真理亞の体重48㎏以下だった。
10回、20回、30回、40回。
50回、60回、70回、79回。
真理亞は数日で、
20歳から99歳になっていた。
テレポーテーションは、
真理亞の心身を確実にむしばんでいたが、
それでも、
真理亞はお構いなしに、
テレポーテーションを使った。
しかし、
100歳になる80回目のテレポーテーションで、
地元に戻ってきた途端に、
真理亞は倒れて、そのまま救急車で運ばれた。
真理亞の母が病院に駆けつけたとき、
真理亞の意識はもうほとんどなく、
むろん喋ることなど出来なかった。
そして、
お医者さんたちの必死の治療も甲斐なく、
真理亞は、ほどなくその生涯を閉じた。
享年100歳の摩訶不思議な人生だった。
ところが、なんという天の配剤だろう。
真理亞には、死ぬ直前に、
テレパシーの能力が芽生えていたのだ。
そして、病院に駆けつけた母に、
テレパシーで次のように語りかけていた。
(ママ、来てくれたのね。
もう口では喋れないけど、
テレパシーが使えるようになったみたい。
これって100歳になったご褒美かしら。
ママ、私そろそろ天国に召されそう。
ある意味、これが最後のテレポーテーションね。
ママ、私を、エスパーの私を、
この世界に産んでくれて、ありがとう。
人生の最後のたった数日だったけど、
テレポーテーションで人助けが出来て、
本当に幸せだったわ。
ママ、さようなら。
最後の最後まで、
心配かけっぱなしの親不孝な娘だったわ。
ママ、ママはまだ50歳、長生きしてね……。)
これが、
真理亞の母が聞いた、
100歳のひとり娘の最後の秘密の声だった。
エスパー真理亞 滝口アルファ @971475
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