4 浄玻璃鏡と業秤

 閻魔省による罪人たち(霊)をまず、裁くための道具が浄玻璃鏡じょうはりきょうである。この前に立てば生前の様々な行ないが曝け出される。


 その鏡は大変大きく全長2mほどで全体に様々な装飾が施されていて見た目はとても美しい物であるが、数千年使い倒してきたためか、毎月清掃をしているようだがどうも映りが悪くなってきていた。そこで呼ばれたのが、生前鏡職人をしていた者、磨き職人、鏡や時計を製作し商売していた者たち技術者達、そして古物鑑定家達であった。


 古物鑑定家達はその価値に対して物の扱い方が悪いと口を揃えて言う。大切に扱っていたら現世では数百億円もするであろうと惜しがっていた。それでも現世価格で数百万はすると言う。それを聞いて閻魔様らは喜んでいたのだが、やはり元の美しさに戻したい。そこで技術者達に修復を依頼したという。


 技術者達は大層悩んだそうである。なにせ、この浄玻璃鏡には設計図など存在せず、閻魔様らもいつから存在していたかを覚えていないようだ。


 とりあえず元の形をイメージして地獄では、最上級の素材を用いて装飾や鏡の修復を試みた。しかし、それではただの立派な鏡にしかならず、真実を映し出す効果が無くなってしまった。これには閻魔様も大変焦り、天国の神様の下へ相談しに行き、どうにか浄玻璃鏡の効果を元に戻せないかと頼みこんだようだが、天国の神様もこれには困った様子だったという。浄玻璃鏡については全く関わったことのないものであり、真実を映し出す効果を込める術など知らないようであった。


 そのようなことがあり、そこで困り果てた閻魔様達は、部下である倶生神の力をなんとか浄玻璃鏡に使えないかと考えた。倶生神は現世で生まれてから死ぬまで全てを記録している神様であり、正直浄玻璃鏡が無くても倶生神がいればどうにかなるのでは、と思われるが倶生神も流石に大量の人間全てを記録しきれてはおらず、二段階認証として倶生神と浄玻璃鏡を使ってきたという歴史がある。倶生神も力を貸すが、鏡に力を移すような事はしたことがなく、自信がなさげであった。


 そこで人間の現世での行ない全記録する機械が様々な発明家や技術者によって考案され、コンピュータのようなものが作られ、浄玻璃の鏡内部に導入された。更に倶生神の力や天国の神様や閻魔様の力を合わせてなんとか浄玻璃鏡の機能が復活した。鏡は機械仕掛けになったものの、芸術家達の細工でコンピュータの部分は見えないように、鏡でありながらテレビ画面のように人生のリプライ機能、巻き戻し機能、早回し機能、停止機能などが付け加えられた。浄玻璃鏡という名のVARが導入されたのである。



 また閻魔様の使う道具に業秤ごうのはかりという物もある。現世の裁判所でも罪の重さを量る象徴としてお馴染みの正確無比な天秤である。


 しかし、これも老朽化により、最近は量り違いも増えてきた。最初は業秤に油を注して、なんとかしてきたがついにガタがきてしまった。


 原因は大変罪の重い罪人を量った際、あまりの重さに業秤が壊れてしまったという。大きい皿に乗せてもう一方を基準となる大きい石を用いていたが、その基準となる石が摩擦劣化していたというのも壊れた一因であるが、あまりの管理の雑さが根本的な要因と言える。


 これには生前、科学者であった人達や技術者達も呆れていたが、彼らの協力もあり、まず、業秤の修理、そして正しい使い方のマニュアルの制作、使う鬼達への使い方の徹底、そして基準となる石の代替となる劣化しづらい物との交換……これらを早急に行われた。


 石への代替としては現世の天秤と同じく、分銅が使用される事になった。更に予備として10個ほどを要因しておくようにされた。


 また、鬼達の罪人達への乱暴な皿の乗せ方も問題視され、罪人であろうと、皿に乗せる際はゆっくりと乗せること。これを厳しく徹底するよう提言された。


 また、試験的に電子天秤の実装も試みられた。こちらのほうが楽だと言われたが、閻魔様も古い者であるため、業秤の電子化には多少の躊躇いがあったようだ。


 しかし、一度テストとして既に裁かれた罪人を乗せると、業秤よりも細かい数値やデータが出され、仕事が楽になると分かった閻魔様は業秤とこの電子業秤の2つを適宜使い分けていくことになった。


 この浄玻璃鏡や業秤はやはり、相当昔からある地獄の重要文化財としてこれからも大切に保存使用していくことが決められたようである。


 一気に古代の遺物と現世の技術力が合わさり、地獄の改革がまた進んだ一件であった。

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現代地獄見聞録 古木しき @furukishiki

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