第4話 死神の逆襲、そして……
コロナに感染してから、5日が過ぎ、町のホームページに書いてある療養期間が過ぎて、重明の体調は日に日に回復していった。
相変わらずひどい寝汗はかくが、あれほど気にしていた味覚と嗅覚の障害はなく、咳もせず、熱はほとんど下がり、便の色も正常に戻り、毎日が食事を美味しく食べれているようになった。
夕飯を食べ終え、少しリビングで休んでいた時に、和江が少し不安そうな表情を浮かべて重明の方へと来る。
「どうしたの?」
「実は私さ、36.8°あるのよ」
「え?」
「さっき少し寒くてさ、布団に入ったら、少し暑くなってきて、熱を測ったらそれぐらいあったのよ……」
「えー、それは早めに寝た方がいいかもな……」
「うん、そうするね」
和江は少し不安になり、寝室の方へと足を進めていき、布団をいそいそと準備を始め、重明は一抹の不安が頭をよぎる。
*****
『奥様も感染しているので、別の医療機関に行って検査を受けた方がいいですね……』
やたら胸がデカくて魅惑的なその看護師は、少し深刻そうな表情を浮かべて重明達にそう伝えたのを思い出した。
寝る前になり、重明は隣の部屋で寝ている和江の方を見やると、少し辛そうな表情を浮かべており、これはやばいなと感じて、和江を起こす。
「どうしたの?」
「ちょっと熱測ってみろ!」
「う、うん……」
「……」
「39.5℃……」
電子体温計の表示には、残酷にも高熱が示されており、それはやはり、コロナによる高熱なんだなと重明達はすぐに分かった。
「病院に行くぞ!」
「え!? でもシゲちゃんコロナなんじゃあ……!?」
「療養期間は過ぎたんだよ!」
重明はすぐにスマホを操作して、近隣にある病院にあちこち電話し、ようやく診察してくれる病院は、奇遇な事に重明が初めにかかったT病院であった。
*****
深夜10時半、T病院はもうすでに診療時間が終わった為、人気は無く、まさか自分達がまたこの病院の世話になるんだなと重明達は複雑な表情を浮かべている。
受付が終わった後、外で待ってくれと言われて待っていると、和江は何かを言いたそうな顔つきで重明を見つめている。
「どうしたの?」
「シゲちゃん、実は私ね……」
和江が口を開こうとした瞬間、外来のドアが開き、重明を検査した人と同じ、巨乳の看護師がキョトンとした顔つきで彼らのもとにやって来た。
「? あの、これから検査をしますが、以前来た方でしたよね?」
「え、ええ……いやあの節はお世話になりました」
「お連合いの方が感染なされたのですが?」
「えぇ、実は私の妻が発熱してしまって……」
和江は、巨乳の看護師の事を思い出し、慌てて一礼をする。
「取り敢えずこれから、検査をします。旦那様は離れていて下さい」
「は、はぁ……」
重明は、和江の容体と看護師の胸が引っかかり、彼等を気にしていて見ているが、和江は看護師に何かを話し、看護師は納得した様子である。
(何話してんだあいつ?)
和江も重明同様、鼻に綿棒を入れられる行為が酷く違和感を感じていて、辛そうな表情を浮かべているのが、重明は痛々しく感じる。
「では、結果が出るまで15分ぐらい待っていて下さい! それと、体をくれぐれも冷やさないでください!」
巨乳の看護師は強い口調で言うと病院の中に入って行き、重明は何か温かいものを買ってやろうと病院の中へと入ろうとするが、先程の看護師に呼び止められる。
「あの、確か療養期間は過ぎてましたよね?」
「えぇ、今日で過ぎてますね。それが?」
「うーん、念の為に抗原検査はしますか?」
「ええ、して下されば……」
「ならばしましょう、ちょっとお待ちくださいね」
重明は、できる事ならばまたあんな、鼻にまんぼうを入れる拷問のような検査はしたくなかったが、和江がいる為、受けるかと思い、外で待つ事になった。
*****
15分以上が経過し、とうとう和江達の検査結果が分かる事となった。
「えー結果ですが、和江さんの検査結果は、インフルが陰性で、コロナが陽性でした。旦那さんはインフルとコロナは陰性です。それと、和江さんは妊娠しています……」
「えー!?」
和江は照れ臭そうにして、重明を見つめている。
「コロナが母体に影響を及ぼすことはまず無いのですが、妊娠しているので、くれぐれも栄養のある物をとって休んでください! 妊娠してると分かった以上、薬は使えません! あれは、奇形児が生まれるリスクがあるので、妊婦には使えないのです! コロナに特効薬はありません! ゆっくりと療養して下さい!」
その巨乳の看護師は、「青春ね」と心の中で呟き、風邪薬と解熱剤を彼らに手渡して、足早に立ち去って行った。
「妊娠って、お前いつから……?」
「ほら、クリスマスの時にシゲちゃん泥酔してエッチしたじゃない!? その時よ!」
「あっ……」
重明は、クリスマスの日に仕事で、帰り道にやけ酒を飲んで家に帰って風呂に入らずにエッチをした醜態を思い出し、バツの悪い表情を浮かべている。
「それよりも、早く帰ろう! 寒すぎよここ!」
「あぁ、そうだな……」
和江は重明の手を取り、車の置いてある方向へとゆっくりと歩み始める。
*****
202X年某月某日、幾多の製薬会社の治験により、とうとう人類はコロナウイルスの万能ワクチンと特効薬を手にする。
それは、人類がコロナという人類史上で類もない、未知の感染症を完全に克服したと言う証である。
テレビで、その様子が流れる映像を、重明と和江は涙を流しながら見つめ、そして娘の裕美はじっと見つめている。
「ねぇ、コロナって何?」
裕美はまだ幼稚園生にもなっておらず、テレビの中の人が何を言っているのか全く分からないのだが、和江は裕美の頭を軽く撫でて、「大人になったら教えてあげるね」と優しく呟いた。
小さな死神の凱旋 鴉 @zero52
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