第3話 死神との死闘
コロナの症状は、まずは高熱と悪寒と咳から始まり、それが数日間続いて、大半の人間が軽快していく。
ただそれは、最新型のワクチンを打てばという前提であり、まだ世間にいる反ワクチン派の人間は「ワクチンは悪だ」という認識で打たずにいる。
重明の周りには、幸にして反ワクチン派の人間はそこまでいなかったが、会社によってはワクチンを打つのを禁じており、人事評価に影響するケースもある。
次の日の朝、重明の熱は徐々に上がり始めて行ったが、気になるのは、会社の上司である周平への連絡である。
「なぁ、どうやって連絡すればいいんだ?」
「うーん、ねぇ、発症日がゼロなんでしょ?
一週間は休みだっていうし。治るまでの期間がちょうど会社の休みと同じだから、一日ずらしてみれば? 土日休めるわよ」
「だよな、そうしよう」
重明は、4年前に購入したスマホを操作して、周平へと休みのメールを考え、『コロナに感染したので、5.6日休みを貰います』という文章を送る。
待つこと数分、周平からメールの返信が来た。
『お疲れ様です。発症日はいつからですか?』
本当はいけないんだろうけどな、と重明は心の中で思いながら、『今日病院に行ったら発症したのが分かりました』とだけ伝える。
『それなら、最低でも5日は会社に来れないので、6日に陰性証明を医者から貰って、結果を教えてください。お大事になさって下さい』
「……だとよ」
「え!? 陰性証明っているの!?」
「うんそうみたいだな、取り敢えずは6日になったらT病院に行こう。そこで貰ってこよう」
「うん。私在宅で良かったわ」
「うんだな、寝るわ。まだ体調が良くないから」
重明は立ち上がり、フラフラと自分の寝室に足を進めていき、その様子を、和江は不安そうに見つめている。
*****
コロナの諸症状は、高熱と咳と喉の痛みと倦怠感がメインだが、重明の場合は何故か咳と喉の痛みはなく、熱だけであった。
「う、うう……」
幼少の頃、温水プールにどぶんと潜り込んだ時と同じか、それ以上に体が重く、明らかにして熱があり、体温計を測ると39.2°である。
(俺このまま死ぬんじゃねぇか……?)
一時間程前に、解熱剤と医者から貰った薬は飲んだが、あまり効果は見られずに、片方の鼻が詰まり、ずっと鼻炎スプレーをしているのだが、全く効果は見られない様子である。
喉が渇き、目眩のする体を無理やりにして起こし、冷蔵庫があるリビングへと重い体を引きずりながら行くと、和江が心配そうにして立っている。
「……」
「和ちゃん」
「大丈夫?」
「やばいかもね……」
「何かあったら言ってね……」
和江は、不安そうな表情を浮かべて重明の前から立ち去っていき、一抹の不安を感じながら冷蔵庫の中に入っているスポーツ飲料を口に運んだ。
*****
次の日の朝、重明は起き上がり熱を測ると38°台の発熱があり、医者から渡された薬を飲んで早々に横になった。
「シゲちゃん、今日大晦日だけど、年越しそばはどうする?」
「うん一応食べるよ。年越しだし」
「うんわかった、買い出しに行ってくるね」
和江は重明が感染してからというもの、部屋の中でマスクをしており、少しでも感染のリスクを下げようという取り組みである。
(こいつに、迷惑をかけるなぁ……)
重明は和江に悪いなと思いながら、耳にイヤフォンを当てて、いつも聴いているヒップホップを流して目を閉じる。
*****
重明が目が覚めると、夜の19時を回っており、リビングに行くと和江が先に年越しそばを食べて待っていた。
「ごめんね、食べちゃったよ」
「いや、いいんだよ」
和江は立ち上がり、台所に行って料理を作り始め、テレビを見やると歌番組が流れており、普段の年末ならば、酒を飲みながらテレビをダラダラと見て過ごしていたことを懐かしく思い出す。
「ねぇ、体調はどう?」
「うんまぁ、少ししんどいかな……でも、食べるよ」
「味覚や嗅覚障害は出た?」
「うーん、食べてみないと分からないね」
「そうか」
重明の目の前に、年越しそばが運ばれてきて、口を運ぶとそれなりに味はするのだが、食欲が全くわかずに、少し食べただけで「もういらない」と言って寝室へと足を運んだ。
*****
次の日、昼過ぎに重明は目が覚めて、熱を測ると37.8°であり、症状は少しずつ快方に向かっていった。
「腹が減った」
重明は空腹に襲われ、和江に「お昼ご飯は何だい?」と尋ねると、テレビ番組が流れており、観ると石川県で大地震があったというテロップが流れている。
「地震!? こんな時にか!?」
「まだ元旦なのに、ついてない一日のスタートね……」
(この人らは、被災地で悲惨な一年を送るんだな、それに比べて俺は、まだ楽な方なんじゃないのか?)
コロナの症状は個人差はあるが、重明の症状は鼻詰まりと発熱、そして下痢気味の腹だけであり、ワクチンを定期的に打っていたから軽症で済んだのかと思われる。
「う……!」
重明は酷い腹痛を感じ、トイレに行って用を足すと、トイレットペーパーに赤茶色の便が着いている。
(血便なのかこれは……!?)
「ご飯できたよ」
「あぁ、今行くよ……」
トイレから立ち上がり便の色を見ると、少し濃い茶色をしており、血便ではないのだなと少し安心した様子で水を流してトイレから出た。
*****
重明が目が覚めると、次の日の朝であり、酷い寝汗をかいているのに気がつき着替え、熱を測ると36.8°に下がっていた。
そして、酷い空腹に襲われ、和江に食事を作ってくれと頼み、大晦日に食べれなかった蕎麦を口に運ぶと、旨みが一気に口の中に広がり、思わず「うまい」という言葉が出る。
「食欲があるのは健康な証拠ね!」
「あぁ、腹減ったわ」
実に二日ぶりの食事に、重明は舌鼓を打ち、また便意を感じてトイレに行き用を足すと、やはりまた赤褐色の便が出ている。
(痔、なのかなあ……?)
薬を飲み、熱を測ると36.6°であり、重明はしばらく横になりながらスマホを弄っているとふと寒気を感じてまた熱を測ると38.5°が出て、慌てて解熱剤を飲んで布団に入った。
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