第5話 宴の後
さて、大騒ぎのバレンタインが終わった次の日。学校は何事もなかったように落ち着き、千紗と菊池は、学級委員会に出るために、廊下を歩いていた。千紗は今日もレモンエッセンスを振りかけてはいたが、昨日よりは控えめにしていた。
「昨日の放課後、一年生からチョコ貰ってたね。あたし、見ちゃった」
「おお。あれ、部活の後輩なんだよ」
それ以外にも、菊池がいくつか貰っているところを、千紗は目撃していた。菊池は結構、もてるのだ。
「菊池くんは、結構、チョコを稼いだんじゃないですか」
千紗がおどけてからかうと、菊池はちょっと声を潜めて、
「でも俺、実はチョコ、嫌いなんだ」
「うっっっそ!」
千紗は、思わず立ち止まった。
「しぃぃ、ゴリエ、でっかい声出すなよ」
「あ、ごめん。でも、でもさ、鮎川さんにミルクチョコが好きだって、言ってたじゃない。あんた、人でなしの嘘つきなの」
「だってお前、あそこでチョコが嫌いなんて言えるか。一対三だぞ。俺だって、ちょっとはびびるわ」
「ははぁ、まぁ、そう・・・だね」
そうだよな。いくら自分に気がある女子だとしても、三人いたら、ちょっと怖いか。
「じゃあさ、もらったチョコはどうするの」
「母ちゃんと姉ちゃんが食べるんだよ」
「なるほど」
「でさ、母ちゃんも姉ちゃんも、ミルクチョコが好きなんだよ。だから、俺はそう嘘は言ってないぜ」
必死に言いつのる菊池を見て、千紗はもう我慢ができなかった。
「あっははははははは」
千紗は、体を折り曲げるようにして、笑った。
「あ、何だよ、ゴリエ。笑うなよ」
「だって、だって」
菊池の困ったような顔が面白くて、千紗の笑いは止まらない。
「はぁ、やっぱ、菊池って面白いわ」
千紗につられて、菊池も笑顔になった。
「確かに、俺って、馬鹿かもしれないな」
「うんうん」
千紗が盛大にうなずくと、
「やかましいわ!」
と、菊池が千紗の頭を叩くふりをした。
千紗が、素早く身をかわすと、
「あれ?」
と、菊池が急に、辺りをクンクン嗅ぎ出した。
「なんか、匂いするな、お前」
「そう?」
「うん、レモンかなんかの匂い。お前、飴でも食った?」
「あほか」
「あれ、でも、本当にするぞ。レモンの匂い」
「そう? なんだろうね」
そう言うと、千紗は笑って、会議室に向かって駆け出した。
これ以上は、情報はやらない。これが、レモンエッセンスの香りだなんて、菊池にだけは、絶対に教えてあげない千紗なのだった。
あたしが千紗だ、文句あるか3 怒濤の?バレンタイン編 たてのつくし @tatenotukushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます