エピソード3:ホームルーム

 「わっ、はしもとあ、、、」

 びっくりしすぎて思わず名前を言いそうになった。いや多分ほとんど言っていた。

 「あれ?どうして私の名前知ってるの?」

の?」

 「あっ、さっき代表の挨拶してたから」

 「そっか、そうだったね。名前も言ってたもんね。橋本彩です。よろしくね」

 「俺は、水無月、、」

 おっと危ねぇ、危ねぇ。普通に挨拶するとこだっぜ。これじゃ普通の奴となんも差別化できない。

 モブキャラの村人Aとしての学校生活のスタートを切るところだったぜ。俺はクールでミステリヤスなんだから。

 「おう」

 それだけ言ってその場を去ってった。

 待って今のめっちゃクールじゃね。絶対彩のやつキョトンとしてその場に立ってるよ。

 なんかあの男の子普通の人とは違うって。

 彩からある程度の距離をとってこっそり振り返ってみた。しかし彩は何もなかったように別な子に話しかけてた。

 「あれ、なんか違うなぁ」

 僕はそう呟きながら教室へと向かった。

        ※

 さぁて、僕の席はどこかなぁ。

 前の黒板に貼られている座席表に目を遣る。右から2列目の席の1番後ろだ。これまた名前順になってるのか。

 悪くない席だ。まぁ理想を言えば1番の端っこの列が良かったんだけど。

 出席番号順らしいから、こればっかりは仕方ないか。

 さて、では始めるとしよう。

 僕は本をサッと鞄から取り出した。本の目次に目をやる。

 忘れてた。僕は本が大の苦手なんだ。所謂活字アレルギーというやつだ。

 よりにもよってなんで哲学者・デカルトの本なんだよ。適当にお父さんの書斎から本を取ってきたのが裏目に出たな。

 まぁ、読んでるふり。読んでるふり。

 そのうち、誰かが声をかけてくれるだろう。なんせ僕は、ミステリヤスなん

だから⭐︎

 「ねーねー、」

 きたーっと僕は心の中でガッツポーズをし、声をかけてきた相手の顔を見る。

 そこには、先ほど声をかけてきた橋本彩が映った。

 「まんまと僕の作戦に引っかかったな。さっきの僕のミステリヤス挨拶のおかげで僕に釘付けってか。」

 「あのー、プリント、、、」

 ああ、プリントが前の席から回ってきたのか。

 とんだ勘違いだった。恥ずかしい、恥ずかしい。

 うんともすんとも何も言わず、目も合わさずににさっとプリントを受け取った。

 流石に感じ悪すぎたかな。

 受け取ったプリントに目をやる。

 6月にある文化祭についての告知であった。

 これは入学初日に配るものなのか?と思ったが、僕がモテて告白されるための大きなイベントであることは間違いない。早めに知れてよかった。

        ※

 ピーンポーンパンポーン。チャイムがなった。

 「お昼にしてください〜!」

 そう担任が言った。

 僕は今とっても大事なことに気づいた。

 1人でぼっち飯だ!!

 ぼっち飯ってどうなんだ?ミステリアスに見えるのか?ただの根暗にしか見えなくないか?

 1匹狼になると決めた以上仕方のないことなのだが。

 事実作ろうと思えばいくらでも友達を作るタイミングはあったのだ。そのチャンスをよく分からない本を眺めてた僕の自己責任だ。

 ちなみに僕が先程から気になっている彩は4人組になって机をくっつけてお昼を食べる準備をしている。ちょっぴり、いやかなり羨ましい。

 中学校までは、給食でみんなで机をくっつけて食べる習慣があったのだ。流石に1人で食べるのは抵抗あるなぁ。

 うむ。どうしたものか。とりあえず今日は1人で食べるか。

 「あのぉ、良かったら一緒に食べない?」

 弱々しい覇気のない声が聞こえてきた。

 そんな神様みたいな人いるのかと思い、声のした方向を向いてみる。そこにいたのは入学式に隣だったあのイケメンだった。

 こんな見た目キラキラ系イケメンが俺に何の用なんだ?

 「あ、俺1人でいいよ」

 僕は目を合わせずにスカした感じで言ってみた。

 実はかなりビビっていた。こんなイケメンに自分が相手にされるわけがないと悲観していたからだ。

 「僕も1人だから、良かったら一緒に食べない?」

 驚いた。いかにもキラキラそうなこいつがぼっち飯なのか。まぁ、1匹狼でいくと決めた俺だけど、お昼くらいは誰かと食べてもいいだろう。変に目立つことも無さそうだし。

 「まぁ、いいけど」

 そう言って僕たちは一緒にお昼ご飯を食べることになった。

 「……………………………………………」

 長ーい沈黙が続く。これって一緒に食べてるって言えるのか?

 仕方ないから僕から社交辞令のような質問を投げかけてみた。

 「名前、村田君だっけ?」

 「あ、うん、、水無月君だよね。入学式隣だったよね。」

 確かに入学式では隣の席だったけど、教室の席は離れてるから一瞬存在を忘れてた。

 「村田君は、もう友達できた?」

 「いや、僕友達作るの苦手でさ。ちゃんと誰かと喋ったのが、今、水無月君が初めて。」

 なんと、もしかしたらこいつ、見かけによらずこっち側の人間なんじゃないか?こんなイケメンなのに勿体無い。

 例えば、もしこの村田と仲良くなったとする。

 そして、こんなイケメンと仲良くしてる俺ってかなり女の子からの注目の的なんじゃないか。いい意味で。

 よし、そうと決まれば1匹狼作戦の途中だったが一旦保留にして、こいつとは仲良くなっとこう。

 僕はこの村田悟と友達になることを今決意した。

 「僕もなんだよ。実は結構人見知りするタイプでね。良かったら友達になってくれない?」

 悟は一瞬驚いたようだったが、

 「僕で良ければ是非」と喜んでた。

 心の中で僕がとってもゲスいことを考えてるとは知らずに。

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ただの平凡な高校生だけど、どうやらモテなければ殺されるらしい。 月光 @LUCEyoshimori

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