第72話 佐伯鷹臣 12


 鷹臣たかおみが開いたファイルには、伽藍胴殺人事件の背後で蠢いていたについての性質がまとめられていた。これは「空っぽの私たち」に書かれていた内容をまとめたものではあるのだが、鷹臣たかおみがこれまでの有り得ざる事象を勘案し、おそらく確定事項なのだろうと判断するに至り、書き出したものである。※空っぽの私たちの作中、伽藍様がらんさまと表現されているのだが、鷹臣たかおみを付ける気になれず、と表記している。また、伽藍の悪魔に対する嫌悪感から、鷹臣たかおみは取り憑かれることを感染、取り憑かれた者を保菌者、力を毒性と呼称。感染には段階があり、毒性の影響力が強まるごとに、第一、第二、第三保菌者──と進む。



〈伽藍の悪魔について〉

 一、伽藍の悪魔の毒性の影響段階

・第一、伽藍の悪魔を認識することは出来ないが、一方的に監視され、欲を刺激される。

・第二、伽藍の悪魔を認識することは出来ないが、更に欲を刺激される。

・第三、稀に伽藍の悪魔を認識する者も現れ始める段階で、欲を満たすことが行動の根幹となり始める。

・第四、伽藍の悪魔をはっきりと認識し、欲を満たすことだけしか考えられなくなる。

・第五、伽藍の悪魔の傀儡となる。


 二、伽藍の悪魔と約束を交わすことで感染し、第三保菌者となる。また伽藍の悪魔は約束を交わした人数によって毒性が上がる。※伽藍の悪魔に魅入られることで第一保菌者となる。


 三、第二段階以上の保菌者と身体接触することで感染し、第一保菌者となる。また保菌者と性交渉した場合は感染力が強く、保菌者の一段階下の保菌者となる。※例、第三保菌者と性交渉した場合、第二保菌者となる。


 四、伽藍の悪魔との約束を破ることで、感染段階が一段階上がる。※駿我するがは第三保菌者だったが、知らず約束を破ったことで第四保菌者となっていた。


 五、おそらく発生源である駿我するがのコレクションルーム──がらんの家では、無条件で感染段階が一段階上がる。※これによって駿我するがは一時的に第五保菌者となり、伽藍の悪魔の傀儡となって操られた。


 六、伽藍の悪魔の毒性が一定まで上がることで、いずれ空気感染で感染段階を上げられるようになることが示唆されている。※毒性が上がることで、欲を刺激する力も徐々に強まっている。


 七、伽藍の悪魔に感染したまま死亡した者は、成仏できずに怨霊となって現世に留まる。



 ファイル内に書かれた文章に一通り目を通した冬湖とうこが「こんなの無理じゃない……」と、悲痛な声を上げる。それもそうだろう。この伽藍の悪魔の性質を考えれば、世の中にはかなりの数の保菌者が溢れていることになる。


「空っぽの私たちの作中、凛花りんかさんが伽藍の悪魔と約束を交わした場面がある。つまり凛花りんかさんは第三保菌者だった。そうなると、凛花りんかさんと性交渉した人達は皆、第二保菌者ということですね。更に第二段階以上の保菌者は、触れただけで相手を第一保菌者にする。僕も凛花りんかさんと関係を持っていたので第二保菌者でした。今は伽藍の悪魔と約束を交わしたので第三保菌者です。となると、先程僕と関係を持った冬湖とうこさんも第二保菌者となった。ですが……先程は僕も我慢できなくて申し訳ない。拒絶すれば良かったのでしょうが、冬湖とうこさんと性交渉したいというを抑えることが出来ませんでした」

「やっぱり毒性が強くなってるってことよね……? 作中にも書かれていたけれど、鷹臣たかおみ君は伽藍の悪魔に耐性があるみたいだし、その鷹臣たかおみ君が欲に負けるなんて……」

「僕が欲に負けたのは、毒性が強くなったことに加え、第三保菌者になったことも影響しているのでしょうね」

「……今更なんだけど、どうして鷹臣たかおみ君は耐性があるの?」

「前に言いませんでしたか?」

「祖父に守られてるって話?」

「そうです。僕は生まれた時から呪われていた。その呪い……穢れを払ってくれたのが祖父ですね。この眼鏡は祖父の遺品なんです」


 そう言って鷹臣たかおみが眼鏡をかちゃりと上げ「ちゃんとレンズは僕の視力に合わせましたけどね」と、柔らかく微笑んだ。そのまま鷹臣たかおみは何かを思い出したようで、「そういえば──確か──」と、ノートパソコンの別のファイルを開く。


「ああ、ありました。雪人ゆきひとが僕をモデルにした【知りたがりの丸眼鏡】という小説を出版したのは知っていますよね?」

「ええ。でも忙しくてまだ読んでいなかったわ」


 「これが【知りたがりの丸眼鏡】の原文です」と、鷹臣たかおみがノートパソコンの画面を冬湖とうこに向ける。


「出版されたものは登場人物や地名、様々な部分を変えて特定出来ないようにしてありますが、これは起きたことをそのまま書き起こした文章です。どうやら雪人ゆきひとは、一度ありのままを書かなければ上手く執筆出来ないようでして。ですからこれは地名もそのままですし、僕や雪人ゆきひとも本名で登場します。よければ冬湖とうこさんにこのファイルを送りますよ? ああ、雪人ゆきひとからは信用のおける大切な人にだったら見せてもいいと言われています」

「いいの?」

「ええ。これを読めば僕の呪われた経緯なども分かりますからね。時間がある時にでも読んでください」


 そう言って鷹臣たかおみ冬湖とうこのパソコンにファイルを送信した。






─────作者より皆さまへ─────


以下に鷹臣たかおみ冬湖とうこに送ったファイルを載せます。読んでいなくても【伽藍の悪魔】のストーリーは楽しめますので、お時間ある時にでも是非☆

鋏池穏美つかいけやすみ


【忌女の纒はる穢れ森】

雪人ゆきひと鷹臣たかおみが主役

https://kakuyomu.jp/works/16817330668037678463


【人鬼の住まふ咎の里】

鷹臣たかおみの呪いについて

https://kakuyomu.jp/works/16817330668855780837


【夜刀の待ち侘ぶ禍つ家】

倫正みちまさ鷹臣たかおみが主役

https://kakuyomu.jp/works/16817330668397218707

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