第16話

話が終わると父さんは、スッと僕の目を真剣に見つめた。


「もう、帰らないといけないな」


そう言った時の父さんの声は、ひどく静かで澄んでいた。


「どうやって帰るの?」


そう聞いた僕に、


「シンジ、お前星屑の小瓶を貰っていただろう?」


と父さんは言った。

そう言われて僕は、モグラちゃんに貰った星屑を集めた小瓶を父さんに渡した。

父さんはそれを、目の前に放り投げた。


「ちょっ?!?!」


僕が思わず右手を前に出して、小瓶を掴もうと大声をあげたら、


「これで良いんだ」


と父さんは僕の前に腕を伸ばして、立ち塞がった。

見ると、小瓶が割れて、中から星屑が飛び散って道が出来上がっていった。

どこまでもどこまでも続く光の道が、真っすぐに伸びていた。


「これ……」


それを見て、驚いている僕に、


「シンジ……この道を歩いていきなさい。そうすれば、元の場所に戻れるから」


と父さんは真剣な目でそう言った。


「え?」


と父さんに問い直すと、


「この光が輝きを消しきる前に、歩ききりなさい。大丈夫、お前が歩ききるまで、星たちは輝いて帰り道をてらしてくれているから」


そうニッコリと父さんは微笑んだ。


「ほらほら」と父さんは、僕の肩を掴んで、道に立たせる。


「父さんは?」


と振り返って僕が聞くと、


「父さんも別の道から帰るから。今夜はごちそうだ」


と笑った。

僕はその言葉と父さんの顔を見て、


「本当に?」


と念を押した。

父さんは困った様に笑って、


「母さんにちゃんと連絡しておくよ。大丈夫、お前の所にも母さんから連絡が来るから」


と言った。

僕はそれを聞いて、


「遅れないでよ?夕食はいつも通り、19時はじまりだからね!」


と言って父さんに手を振った。

父さんも僕の言葉を聞いて、


「ああ、遅れない!それと、シンジ」


と手を振りながら、父さんは最後にこう言った。


「今度はちゃんと見つけて、離すんじゃないぞ!あの子を」



その言葉が耳元で聞こえる最後の言葉になった。

僕はその後、キチンと道を歩いていった。

その途中で、急激に眠気が襲ってきて……




目が覚めたら、僕はつり革に掴まっていた手を離して、よろけるところだった。


「大丈夫かい?」


そんな僕を後ろに立っていた男性が支えてくれた。

僕はその人の顔を見ずに、


「あ……すみません、ありがとうございます」


とペコリと頭を下げた。


「それは良かった」


と言う男性の顔を僕が頭を上げた時に見たら、そこには鷲の頭の人とそっくりな人が居た。


「ここカーブきついから、気をつけてね」


と彼は言った。

僕はそんな彼の顔を見て、目を見開いて、頷くしか出来なかった。


そんなことに驚いていたら、学校の最寄り駅についた。

それまで眠っていたのか?と不思議に思って首を傾げながら、僕は改札を抜けた。

学校まで歩いている途中で、ちょうど今からお出かけする家族とすれ違った。

両親に挟まれるようにして、手を繋いでいた声をキャッキャとあげて楽しそうにしている女の子を見ると、モグラの子そっくりで、また僕は驚いた。

あんな子居たっけ?

と僕は首を傾げつつ、学校への通学路を歩いた。

学校に着いて、門をくぐろうとしたら、


「あ!危ない!」


と守衛さんに声をかけられた。


「うわっ!」


とホースから出ていた水を避けようとしたら、


「すまんなあ」


と守衛さんが頭をさげているのが分かった。


「いえ……」


と言おうとしたら、その守衛さんの顔が、ウサギの車掌『アイキ』にそっくりだった。


「大丈夫です」


という僕の声は、微かに震えた。


「そうかい?」


と守衛さんは僕の顔が驚きに満ちていたから、少しだけ困惑していた。

あまり長居したら、「具合悪いんじゃないか?保健室に行くか?」と言われかねないので、僕は速足でその場を去った。

補講の授業が始まるまで、大分時間があった。

今日はすごく早く家を出たんだなあと思って教室に向かう為階段を上がっていた時だった。

歌声が聴こえた。

僕はその歌声に覚えがあった。

僕が向かう教室の更に上の階には、音楽室がある。

僕は教室に向かわずに、一階上にのぼって、音楽室に向かった。

音楽室の扉の前で、一旦立ち止まって深呼吸をする。


『今度はちゃんと見つけて、離すんじゃないぞ!あの子を』


不意にさっき聞いた父さんの言葉が思い出された。

僕は父さんの言葉に勇気を貰って、ガラリと扉を開いた。

中を除くと、女の子が一人窓辺に向かって歌っていた。

扉が開いたことで歌声が一旦中断した。

扉の方に振り返った彼女の顔は。

彼女が何かを言う前に、僕は口を開いた。


「おはよう」


と。



ここから僕は新しい一歩を歩き出す。


今日は父さんが帰ってくるはずだ。

久々のごちそうだといいな。

もしも出来るならば、また部活に入り直そう。

皆もう一度迎え入れてくれるだろうか?

そのうち、彼女も紹介しよう。

皆と一緒に遊びに行けたらいいな。


そんなことを考えながら、怪訝な顔をする彼女に向かって、


「いきなりだけど、僕と友達になってくれませんか?」


と僕は右手を差し出した。




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