第2話

 9時15分。

 ジリリリリと鳴った目覚まし時計を止めた時には、もう遅刻することが確定しているわけで。


「うゎ〜、ヤバいヤバい‼︎」


 その現実を理解した瞬間一気に覚醒した私は、ガバッと飛び起きた。何故か布団が絶望的にぐちゃぐちゃだったが、そんなこと気にしている暇はない。

 

 いつもの制服にいつもの上着、いつもの鞄を持って、私は階段を駆け降りる。足を踏み出すたびに床がミシミシと悲鳴を上げるが、悲鳴を上げたいのはこっちだよ‼︎(?)


「あら、レイカちゃんようやく起きたのね、おはよう」

「あっれ〜?レイカ、もしかしてまた遅刻?君は本当に学習しないね〜」


 一階に降りると、おばあちゃんと飼い猫のアイはもう起きていて、優雅に朝ご飯を食べていた。

 いや、早起きしたなら私も一緒に起こせよ⁉︎ って感じだが、かなり今更なので黙っておく。


 美味しそうにフレンチトーストを頬張っているアイを横目で睨みつけながら、私は洗面所に向かう。寝癖で前衛的になった髪の毛を直さないといけない。

 でも結局、毎回リボンで無理やりまとめることになるのだが。


「あれ、今日は反論しないんだ。もしかして、本当にヤバい感じ?」

 台所の方から、アイの小馬鹿にしたような声が聞こえた気がしたけど、そんなの無視だ、無視。


 アイは、猫のくせに話せる、変なヤツ。羨ましいと思う人もいるかもしれないが、アイツの場合ただのストレッサーでしか…ってあぁ、もう一時間目が始まってる‼︎


 私は、鞄を乱暴に掴んで玄関に向かう。おばあちゃんの、「食パン咥えていく?」みたいな声が聞こえたけど、そんな人リアルで見たこと無いよ‼︎


 泣く泣く朝ご飯を断って外に出ると、アイがちゃっかり自転車の籠の中に入っていた。

 多分、どこか遠くに散歩に行くつもりなのだろう。

 私は、まだ少し冷たい空気を吸って、自転車にまたがった。


「行ってきまーす‼︎」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「うぅ…」


 私は、部屋に帰ってくるなりすぐにベットに顔を埋めた。溜まっていた疲労が、ようやく少し、軽くなる。

 今朝思い切り遅刻した私は、案の定こっぴどく叱られてしまった。まぁ流石に十日連続はまずいかな、と思ったけど、居残りさせられるなんて聞いてないよぉ…


 はぁ、と小さくため息をついて、私は仰向けになって天上を眺める。やっぱり何も考えたくない時は天上のシミを眺めるのが一番いい。ナンカよく見ると顔に見えてきたな…


「あ、レイカ、もう帰ってたんだ」

「⁉︎」


 私がぶつぶつと独り言を呟いていると、いつの間にかアイがクローゼットから出てきていた。

 私は反射的に、上半身を勢いよく起こす。


 今の見られた…?


 それは非常にまずい。天上のシミを数える趣味(?)があるなんて、アイに知られたら馬鹿にされるに決まっている。あと、絶対そんな事してないで勉強しろ、って言われる。

 何があっても勉強はだけはしたくない。絶対に。


「あ、ちょっと、居残りさせられちゃって…大した事じゃないから‼︎」

 私はとりあえず何か言われる前に先手を打って、ぐぐぐ…とクローゼットのドアを閉めることにした。 


 昔、私の友達に拾われたアイはずっと、ここに住み着いている。今となってはただの猫の姿をしたヒキニートだが、昔の私はアイを可愛いと錯覚してしまったのだ。あの時飼うなんて言わなければこんなメンドクサイ事には…‼︎あの日のことを後悔しない日はない。


「ちょ…何で怒ってるの?」

「怒ってないし⁉︎」


 アイが何か反論しようとした時、呼び鈴の音が鳴り響いた。

 

『ピンポーン』

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至急、バッドエンドを上書きせよ‼︎ しゃも @Yawa0125

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