第10話 新生活の始まり
次の日の朝、内田はあまり眠れずいつもより早く起きた
もともと、旅行などでも慣れていない所だと眠れない体質だったので慣れるまで我慢するしかないか、と1人思いながら内田はスマホを見た画面には、12月17日 5時31分と出ていた。外はまだ暗くスマホの灯り以外照らすものはなにも無かった
30日後、正確には29日後だろうか?その頃にはもうこの世には居ない
やり残した事はないか?やってみたかった事はないか?と言われても思いつくようなことはない、、これから、どうやって生きていくのが正しいのかそんな事を1人ベッドの上で考えているとふと、井川 結衣の事を思い出した。
30日限定の恋人、あの子はどうしてあんなにも生きたがっているのだろうか?
何のために生きているのだろうか?こんな事をしてまで生きたいと思う理由それはどんなモノなのだろうか?
生きると言うこと、生きたいという事は内田にとって最も遠い考え方だった
いままで理解しようとも、考えようともしないで生きてきた内田にとって未知の領域だったのだ
そんな事を考えているうちに朝日が昇り、鈴木が朝食の準備が出来たと内田を起こしに来た。内田は急いで支度をし部屋を出ると、そこにはいつも通りスーツ姿の鈴木が立っていた
「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
鈴木の質問に「いやー、、」と言いながら首を傾げていた
「そうでしたか、急に慣れていない場所で生活することになったのもあり仕方ないですね
何かお困りの方はございませんか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「分かりました。それでは、朝食に向かいましょうか」
そう言うと鈴木は、内田を連れて昨日のリビングに向かった。リビングに向かう途中内田は、滝澤のことを思い出して鈴木に尋ねた
「あの、朝食とかもあの男の人はいるんですか?」
「男の人?滝澤さんのことですか?」
「あ、その人です、、」
「そうですね、井川光一様のご厚意で、我々世話役も一緒に食事をすることになっていますので、食事は基本一緒ですね、、
ご希望でしたら、内田様の時間を少しずらしましょうか?」
鈴木は、昨日の夜のことを知っていたので、内田が滝澤の事を気にしているとすぐにわかった。しかし、内田はまだ来たばかりなのに勝手に1人だけ食事の時間をずらす勇気が持てず静かに「いえ、大丈夫です、、」と返しリビングに向かった。
リビングに着くと結衣の両親が先に座っていた。テーブルには、朝食のおかずが並んでいた。
「おはようございます」
と内田と鈴木は挨拶をし両親とは反対の席に向かった。鈴木は内田と滝澤が隣同士にならないように内田を端に座らせその隣に鈴木が座った
2人が座ってすぐ結衣と付き添いの滝澤が入ってきた。一瞬、内田が滝澤の顔を見ると鋭い滝澤の目線と合いすぐに目を逸らした。2人もリビングに入るとみんなに挨拶をしていつもの席に座った。
全員揃うと、昨日の夜と同じく専属の家政婦がそれぞれに温かい白米と味噌汁を配膳し、それが終わると皆んな一緒に「いたたぎます」と言って食事を始めた
食べ始めてすぐ、光一が内田に話しかけた。
「内田さん、昨日はよく眠れましたか?」
「あ、はい、それなりには眠れました」
と、内田は少し言葉を濁した
「そうですか、まだここには慣れていませんからね、我々の勝手な都合で無理やりここに住んでもらう形になってしまい申し訳ない。
何かあれば、滝澤や鈴木、直接私にでも良いので何でも言ってくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」
内田との話が終わると光一は、結衣に話しかけた
「結衣、今日の調子はどうだ?辛くないか?」
「大丈夫よ、お父さん。今日も美穂先生は来てくれる予定?」
「今日もピアノの練習をするのか?
たまには、休んだ方がいいんじゃないか?」
父親の言葉を聞いて、母親も「そうよ、無理して練習しても、体に悪いだけよ?」と結衣に言った
「いや!私もっとピアノが上手くなりたいの!まだ、美穂先生に認められるような演奏も出来ないんだもん、、」
「そうか?それは、病気が治ってからでも良いと思うが、、なら、少しだけ見てもらえるように言ってみるよ」
「ありがとう」
と、目の前ではとても仲の良い家族の会話が広がっていた。その光景は内田にとってまるで、内田の両親と妹達の会話の風景のようだった
「滝澤さん、今日私達は、次のコンサートの打ち合わせがあり家にいないんですよ、なので今日も美穂先生の事や結衣のことお願いします」
「分かりました、お任せください。
ところで、もう次のコンサートが決まったのですか?次は何処ですか?」
「次は、福島の郡山だったかな?」
「おお、あの東洋のウィーンですか!
流石です、しかし、そうなるとしばらく家を空けるのですか?」
「コンサートの前後2〜3日は空けることになるが、結衣の手術の時には必ず家に居るよ」
「そうですか、かしこまりました。また日程など詳細が決まりましたらお知らせください」
「分かった、いつもありがとう」
そんな会話をしながら、それぞれ食べ終わると支度をしにそれぞれリビングを出て行った
内田も食べ終わり、一度自分の部屋に戻った
生きたがり屋と愛されたがり屋 菊千代 @Tyabutyabu
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