破魔矢の合間に何を置くべきか?

化野生姜

印刷するの、めんどいんだもの…

破魔矢はまやを外しているあいだに、悪いものが入ってきたらどうするの!」


 道の突き当たり、つじには魔物が住むと言われている。


 私が親と共に住むアパートの窓も位置的には突き当たり。なので、引越し当時から窓の上(正確には、カーテンレールの上)には、神社で手に入れた破魔矢を設置していたのだが――問題は正月の入れ替え時期だ。


「今日は家から一歩も出ない。アナタだけ家族の代表として初詣はつもうでに行って破魔矢とお守りを買ってきてちょうだい!」


 仕事休みの寝正月を決め込む親に、こちらも素直に了解して出かけようとすると「ちょいまち」と引き止められる。


「ここは辻なんだから、カーテンレールの上の破魔矢を外せば悪いものが入ってきちゃう。代わりに何か対策をしてよ」


 この場合、魔除けとして有効なのは鐘馗しょうきさま様。


 屏風や掛け軸などにもなっている中国道教の民間信仰の神ではあるが、疱瘡ほうそうを始めとした疫病えきびょう除けの神様として人気も高く、もちろん探せばネット上で画像はごろごろしているので印刷して貼り出せば問題はない。


 ――だが、それを出がけ直前の人間にいうものだろうか?

 目的の神社は地元でも有名なため、遅れると混雑に巻き込まれることは必須。


「ダルマでも描く?」


 疱瘡除けや魔除けとして有名なダルマ。

 多少、絵心のある親ならあっという間に描けるはずだ。


「やだ、鐘馗様が良い。ダルマにしても家に赤く塗るものがないし」


(――さて、困った。他に代わりになりそうなものは?)


 そこで目に止まったのはクリスマスケーキの上に乗っかっていた小人のケーキピック人形。


言霊ことだまとして、これの下に『鐘馗』って字を書いて上に置く。赤いし、ノコギリ持ってるから問題ないでしょう」


「問題しかないわ!」


 …小人さんもショックだろう。


 当人としては、ブッシュドノエルの人形として上に乗っかっていたつもりが、正月早々に鐘馗様の代理としてノコギリ一本で破魔矢が手に入るまで窓から入る悪鬼たちとタイムアタックをしなければならないのだ。


 下手な異世界転生よりもハードな人生を送ることになる。


「――じゃあ、唐辛子で」


 この赤い香辛料も魔除けの意味を持ち、家の軒先や窓に吊るされるもの。


「…だったら良いわ」


「良し」


 母の言葉に私は家に置かれていた七味唐辛子の瓶を窓際に設置し、ゆうゆうと初詣に出掛けたのであった…

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