第3話 可愛いすぎるだろ

「告白なんて、そもそもしてないけど」


「その気が無いのに、私に可愛いなんて言ったの? あなた、いわゆるタラシってやつ?」


「いや、違うけど……可愛い女の子には、素直に可愛いって言うだろ」


「ま、またあんたはそんな事言って……騙されないんだから!」


 何か、顔を真っ赤にして怒るサラが、だんだん可愛く見えてきた。

 ツンデレキャラにハマる人の気持ちが、何となく分かった気がする。


「……それで、いい加減あんたの住所教えなさいよ」


「うーん、っていうか……分からないからなぁ」


「わ、分からない?」


「うん」


 まぁ住所って、日本の東京だし。

 ここは、おそらく乙女ゲームの中なわけだから、どこに住んでるのか伝えても、絶対家になんて帰れない。


 教えても、無駄ってやつだ。


「もしかして、迷い妖精の子?」


「え、何そのファンタジーなネーミング」


「突然人の家の庭とか、道路とか、街に設置された巨大ゴミ箱の中に入って倒れてる人がいるの。その人は、自分の名前は分かっているけど、住んでた場所も親や友人の名前も思い出せないんですって。そういう人達を、迷い妖精が連れ去った子、略して迷い妖精の子って呼んでるのよ」


「あんまり略して無いだろ、それ。ってか、俺良かったー。サラの庭で倒れてて。ゴミ箱の中とかに入ってんの嫌すぎだもん」


「茶化して話をすり替えるのはやめなさい。それで、ヒスイは迷い妖精の子で、間違いないのね?」


 違うけど、ここはこの世界のファンタジールールに従うしかないだろう。

 話も進まないし。


「サラの話を聞く限り、そうだと思う。住所も、親や友人の顔も思い出せないし」


「そう……」


 サラは、何やら難しい顔をして、部屋の中をウロウロとしばらく動き回る。


「トイレ行きたいの? なら俺ここで待ってるけど」


「そんなわけないでしょっ!?」


「いだっ!?」


 サラの平手打ちが飛ぶ。

 だって、黙ってウロウロしてたらトイレかな? って思うじゃん!


「ヒスイって、デリカシー無いわよね! 今、どうしようか色々考えてるのよ」


「何してくれるの?」


「ヒスイが、自分の事を色々思い出せるように、お手伝いしてあげようと思って」


「お前、ほんと主人公みたいに優しいよな」


「ば、バカ言わないでよ!」


 真っ赤な顔をして怒る彼女の事が、だんだん俺も好きになっていきそうだ。

 こいつ、良い奴すぎるだろ。

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恋愛シュミレーションゲームが好きなだけなのに、異世界転移したら悪役令嬢に恋愛マスターと思われてしまった みちゅき @micyuki

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