【SFショートストーリー】暴走図書館、世界を乱す
藍埜佑(あいのたすく)
【SFショートストーリー】暴走図書館、世界を乱す
ある晴れた日、孤高の図書館司書・ケイは、ひそかに開発していた量子図書館を完成させた。
過去・現在・未来、あらゆる時代の書物が、電子的に借りられる世界初の試みだ。
しかし、量子的な不確定性が、読者に思いもよらない体験をもたらす仕組みを孕んでいた。
ケイは最初の利用者に、自らが選んだ一冊の本を渡す。
それは彼女の一番好きな小説だった。
その本を手にした利用者は、まるで物語の世界に引き込まれるように読み進める。
だが、閉じた時、彼女の目の前には小説の主人公が立っていた。
これは、量子図書館の特異な効果だった。
読者の意識と本が結びつき、物語が現実の一部になるのだ。
喜んだのも束の間、ケイはとんでもない問題に気づく。
物語から抜け出たキャラクターは、自らの世界を求めて図書館から脱走を試みたのだ。
ケイは図書館内をめちゃめちゃにするキャラクターたちを何とか抑えつつ、原因を突き止めようと奮闘する。
彼女は量子コンピューターを調整し、現実世界と物語世界の境界を安定させる方法を探り始める。
やがて彼女は解決策を見つけ出す。
それは、本の結末を読むこと。
物語が完結した瞬間、キャラクターたちは本の中へと戻るのだ。
ただし、一つだけ条件があった。
それは本を読み終えた人が本当に納得して「フィナーレ」と感じること。
最後の一ページを閉じるたび、キャラクターは光の渦とともに消えていった。
ケイはホッと一息つく。
それもつかの間だった。まだ図書館には暴れまわるキャラクター達がいっぱい残っていたのだ。
「なんで? どうして!? みんな最後まで読んだんじゃないの!?」
それは結末に納得できない読者が大勢いたことを示していた。
ケイは図書館を走り回りながらため息をついた。
「そうよね……案外、駄作って多いものね……作者の意図が読者に伝わるなんて、ある意味奇蹟のようなことだもの……」
かくしてケイは今日も図書館を走り回り続ける。
(了)
【SFショートストーリー】暴走図書館、世界を乱す 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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