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 時は立ち、今日もきれいな星空が見えています。


 今の今まで見張りをしていた早紀と、今の今までトラックを修理していた小夜、今の今までただただ寝ていたラーク、そして今の今までフライパンの上にいたマグロザウルスは、小夜が作った瓦礫のテーブルセットに集まていました。


 目的はもちろん夕食を取ることです。


「できました!

 マグロザウルスステーキです!。」


 銀色の皿に乗ったそれは、デカすぎる身を小夜が一所懸命に食べやすい大きさに切り分け、そのまま塩を振ってフライパンで焼いただけという、いたってシンプルなドレスアップをしていました。


 あの気持ち悪い見た目からは想像できないほどのおいしそうな見た目になっています。


「いただきます」


 一番槍を務めたのは小夜です。

 箸で身を一口大に切り、そのまま口に運びます。


「うん!

 これはおいしいです!

 身は固いかと思いましたが、意外と脂がのってて柔らかいですね!」


 早紀もそろそろ覚悟を決めなければなりません。

 いざ一口。


 じゅわぁ。


「っ!?

 おいしい……!」


 思わず口から出てしまいました。

 脂の乗った身が噛むほどに口の中でほどけ、丁度いい塩加減により旨味がしたたってきます。

 さらにマグロ特有の赤身の美味しさに加え、独特の獣肉のような匂いが合わさっており、意外とこれがよく合います。


 ラークも無言でパクパク食べています。


「ラークさんは今お住いのマルカ町のご出身でしたよね」


 小夜がラークに言いました。

 今から始まる会話に何の意味があるか知りませんが、ご飯がまずくならない話であることを願うばかりです。


「そうだ。

 俺の家は町の外れにあった。

 本当はここらへんが町の中心部だった」


 ラークは箸をおきました。


「中心部にはデカいデパートがあってな、お袋の買い物の荷物持ちをすると、帰りにフルーツジュースを買ってもらってた」


「今ご両親はどちらに?」


「父は死んだ。

 母は中央に避難したと聞いている。

 徴兵にあって、帰ってきたら町はこのありさまだった」


「それは、心中お察しします」


「いい。

 もう昔のことだ。

 この街のみんなが大好きだった。

 アリサおばさんも、両親も、ラフェさんも」


(ああ、飯がまずい)


 早紀は心の中で思います。

 そんなことを言ったら、きっと小夜に嫌われてしまいます。


「だから、せめて俺だけでも残そうと思った。

 この場所にマルカという地名があったことを」


(人の不幸話を聞いて何が楽しい?

 私は先輩みたいに優しくないから、同情なんてできない。

 ただただいやな気持ちになるだけだ)


「現在政府では、例え人類が滅びたとしてもその歴史が残るように記録するプロジェクトが始動しているんです。

 だから、きっとマルカ町も残りますよ、人類の記憶に」


「そうか。

 それはよかった。」


 ラークは一気にマグロザウルスステーキをかきこみます。

 むしゃむしゃと豪快に食べて飲み込みました。


「さぁ、俺の話はした。

 次はおまえの番だ」


 ラークが小夜のほうを見つめて言いました。

 一体何を聞くきでしょうか。


「お前、何者だ?」


 その言葉の真意は、夜宮小夜という人物の年齢や出身を聞くものではないと早紀は理解しました。

 つまり、昨日散々考え、頭の隅の隅に追いやった考えをほじくりかえすものなのです。

 夜宮小夜は、勇者であるのか?

 この世界を、終末に追いやった張本人なのか?


「わかりました。

 私も正直に話します」


 早紀の鼓動が早まります。

 ご飯を食べていることを忘れて、空を見つめてしまいます。


「私は」


 唾が喉に張り付きます。


「私は、勇者ではありません」


 なんだ、これだけ引っ張っておいて違うんじゃないですか。


「ありませんが、勇者パーティーの一員でした」


 なんと、これはこれで中々ショッキングです。


「私の前職は勇者パーティー守護者隊隊長です」


(そっかぁ……。

 ならあの身体能力にも説明が……あれ?

 ついてなくない?)


 そうです。

 小夜が勇者パーティー守護者隊隊長だったからといって、あんなに頑丈で素早い理由にはなりません。


「私の体は特殊で、血中酸素濃度が人よりも高いんです。

 だから人よりも運動神経がいいんだと、子どもの頃に医者の方から言われました」


 なるほど。

 理屈はよくわかりませんが、小夜がそう言うのならそうなのでしょう。


「早紀ちゃんもすみませんでした。

 ずっと不信に思ってましたよね」


「いえ、私はそんな気にしてなかった……って言ったら嘘になりますけど、何て言うか……、先輩は先輩ですから!」


 変に前のめりになってしまいました。

 何か言いたいのに、言葉が出てくれません。


「ありがとうございます」


 小夜が穏やかな微笑みをたたえます。

 なんか恥ずかしくなってきました。


 あわててマグロザウルスステーキを頬張ります。

 少し冷めてしまったそれは、最初に食べたときよりも味が薄く感じました。


「そうか」


 ラークは小夜の話を聞いてそれだけで返しました。

 それだけかよと思いましたが、たいして小夜と面識のないラークにとっては、あの身体能力の説明が付けば、どうだっていいことなのでしょう。


「あと、これはあまり知られていないのですが、勇者といのうは全てのクラスを所有した力を持っているんですよ」


「へー、そうなんですか」


 それは初耳の情報でした。

 確かに、素早くて頑丈で魔法が使えて神様から加護をもらえないと、魔王には太刀打ちできないですね。


「ごちそうさま。

 先に休ませてもらう」


 ラークはさっきまで寝ていたテントの中に戻りました。


「早紀ちゃんも、今日はもう休んでください。

 約束通り今からの見張りは私一人でしますね」


 本当はこの話には同意したくありませんが、小夜のメンツや気持ちを汲み取ってうなずくことにします。


「わかりました。

 ではよろしくお願いしますね、先輩」


 そう言って早紀はテントの中に戻りました。

 今回は安眠をせずに、少々外に気を張って眠りにつくことにしましょう。

 そう思いながら早紀は寝袋にくるまりました。


 翌日、ラークの家が燃えました。

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勇者は世界の終わりをただ願う。 @takamura_saita0315

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