第7話「無敵の女、夜惟ちゃん」

『結局ナンパ配信失敗するしよ~。本当、世間はあたしの魅力分かってねえよなぁ』



 干物女はゲーミングチェアに胡坐をかいて、くるくる回る。

 数日前のナンパ配信の反省会、と言う名の飲み枠だ。

煙草の箱に手を伸ばし、蓋を開け取り出す……かと思ったが、夜惟はしかめっ面を浮かべた。



『チッ、煙草切れやがった。買い行くから配信切るわ』


[ヤニカスの鏡]

[禁煙しろ]


『ああ、うるせえうるせえ。じゃ、今日もビクトリィ~』



 いや~今日も良いクソ具合。

 倫理も常識もないアングラ配信でしか得られない栄養がある。


 配信終了から約五分。

 ドアの開閉音の後に、コッコッコッと下駄とコンクリートがぶつかる音がする。

 よし、行ったか。

 俺はボンドを手に取り部屋の外に出た。


「ぎゃははは! 騙されたなバーカ!」

「は?」


 扉の外でカメラを構えている大鰭夜惟が立っていた。


「ボンド野郎の間抜け面ゲット~! 突発逮捕配信開始してやんよ~」


 慌ててスマホで動画サイトを開いた。大鰭夜惟は絶賛生放送中、画面の中には驚きを隠せていない俺の顔があった。


「なんでバレた?」

「ぎゃははは! って、あたしのビューテホーな声が左隣から筒抜けなんだよぉ!」

「さすがレ〇パレス」

「毎晩見てくれてありがとぉ♡ お礼してやんよぉ!」


 夜惟は、ずかずかと俺の玄関に踏み込んでいく。

 やばい、まずい、どうしよう。

 助けを求めようとコメント欄に縋りつこうと思ったが、ヨゴレ者の家に凸というビッグイベントで大盛り上がり。


[や~い! お前の隣人ヨゴレ者!]

[おいおい、あいつ死んだわw]

[凸リスナーに同情したの初めて]


 だめだコイツら、人の不幸を笑う屑しかいねぇ。無論、俺もその一人だったわけだが。


「言っただろぉ? あたしのⅤはビクトリーのⅤだって。ヨゴレ者の分際で、大鰭夜惟に勝とうなんざ、百億万年早いんだよぉ!」

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推すな汚すなよ、夜惟ちゃん! 川雨そう @kawau_sou

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