第6話「ナンパ師すら裸足で逃げ出す女」

 この日の夜惟は一味も二味も違う配信をしていた。

 撮影場所は家賃五万の格安ワンルームではなく屋外、見た感じサンシャイン通り。


 服装もいつものくたびれた格好ではなく、清楚そうな白ワンピースにパンプス。髪を綺麗に巻いている姿は別人のよう。

 金髪が若干チャラそうな雰囲気を漂わせるが、可愛らしい雰囲気から大きく外れているわけでもない絶妙なバランスを保っていた。

 ブカブカTシャツと熊さんパンツ、下駄でゴミ出ししている女と同一人物だとは思えない。



『えー、今回は街ブラ配信。ナンパ師を片っ端からぶちのめしていきまーす。あたしが日本の治安守ってやんよ~』

 ガワは綺麗だが中身はきたねぇまんまだ。アンバランスすぎるが、夜惟が丁寧な言葉遣いなどしようものなら鳥肌が止まらなくなるからこれでいい。むしろ、これがいい。


[物騒やな]

[捕まるのお前だぞ]

[お前は乱す側]



 相変わらずコメント欄は辛辣だが、正直なところ可愛い部類に入る。

 口を開かなければ美人。きっと声かけた男もそう思ったのだろう。



「お姉さん、この後空いてる?」

 何も知らないテンプレのような黒髪マッシュの黒マスク男が近づいてきた。


『ん?』


「めっちゃ可愛いね。オレとお茶しない? 奢るからさ」


 ナンパ男はカモを見つけたのだと思ったのだろう。本当のカモはお前なのにも関わらず。そんなことにも気が付かないことを酷く不憫に思う。


『え、あたし?』

「そうそう、お姉さんだよ。この後、時間ある?」


 そのセリフを聞いた瞬間「ぎゃははは!」と到底画面内の美人から放たれたと思えない笑い声が響く。


『聞いたかお前ら! あたしにも女の価値があるって証明されたぞ! お前らの目は節穴だったなクソ童貞どもが!』


[ヤリモク]

[穴モテって知ってる?]

[誰にでも言ってるぞ]



 宝くじでも当たったかのようなハイテンション。アルコールが入ってるのではと疑うが、彼女は間違いなく素面である。

 非情な現実を伝えるコメント欄と顔が引きつるナンパ男。楽しそうなのは夜惟だけ。



「え、何? 君ユーチューバー?」

『なんだお前、この大鰭夜惟を知らないんかぁ?』

「ちょーっと知らないかな……」

『まじかぁ、ナンパ師界隈にも名前を轟かせてやんよ』

「あー、遠慮するわ」

『うるせぇ! 声かけたんだから責任取れや、ヤリチンがよぉ!』


 ダッシュで逃げるナンパ男を追いかける大鰭夜惟。

 その後SNSで晒されていたことは、この時は知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る