第5話「地獄は画面の向こう側」

[夜惟じゃ抜けない]


 ある日、たった一つのコメントで争いの火蓋が切られた。

 女配信者に送るには、あまりにも下品な内容であった。その女が大鰭夜惟じゃなければ、即削除ものだっただろう。



『はぁ? お前らのオカズってあたしじゃねえの⁉』

 しゃぶっていたスルメを口から離し、あり得ないとばかりに目を見開く。


[悪食はしない]

[腐ってそう]

[自惚れるな]


『しゃーねーなぁ。ほら見せてやるよ、お前らが一生見ることの出来ない女の胸だぞ』


[望んでない]

[おい馬鹿やめろ]


 コメント欄の静止の声も聞かず、夜惟はゲーミングチェアから立ち上がりカメラにぐいっと近づいた。

 前かがみになり、ヨレた襟元からシャツの中身を覗かせる。


 不健康なほどに白い肌は日に当たっていない証拠。本来なら白く滑らかな山があるはずなのだが……不思議なくらいに何もない平坦が広がっている。

 貧乳なんか通り越して無乳。

 さすが、ブラを一つも持っていない女。よせるものがないのだから必要ないのだろう。


『ほら、どうだ~? お姉さんの色気がムンムンに漂ってるだろ?』


[何も助からない]

[貧相なものしまえ]

[お前に色気求めてない]



 二十四歳女配信者のコメント欄とは思えない辛辣さ。流れる辛口な意見を目にし、夜惟の表情はどや顔からしかめっ面に様変わり。

 誰も助からない地獄はここにある。



『はぁ? テメ―ら文句言える立場なんか? 見たんだから金払え!』


[当たり屋やめろ]

[目が汚れた。慰謝料よこせ]



 うりうり、と肉の平地を見せつける。配信画面いっぱいになるまで近づいた時だった。プツンと画面が真っ暗になる。

 この配信後、大鰭夜惟チャンネルは一週間の垢BANをくらった。

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