第4話「個人情報取り扱い注意」

 俺は引っ越しをした。

 新しい環境は慣れないのだが心機一転で良いだろう。荷ほどきを終え、一息つく。

 休憩がてら配信を付けると、いつものようにヤニカス女が吠えていた。



『おい、誰だ。あたしの家の鍵穴をボンドで埋めた奴は! クソみたいなことしてんじゃねえよ! 弁償しに来いや!』


[それ俺がやった]

[住所特定されてて草]

[バレたか]



 どうやら個人情報をお漏らししたらしい。レシートやら税金周りの書類を配信に載せたら、そんな事態にもなるだろう。

 ああ、怖い怖い。俺も個人情報の取り扱いには気を付けねば。


『まじで腹立つわ! 犯人見つけたら晒し上げてボコボコにしたるからな!』


[はい脅迫罪]

[捕まるなよ]


『なんで、あたしがそんなこと言われなきゃなんねーんだ! 気分

悪ぃ……はい、配信おーわり。今日もビクトリー』

 舌打ちをし、夜惟は配信を終了させた。


[あ、逃げた]

[おつビク]


 コメント欄は敗走宣言を煽りつつも、次々に終了挨拶を打ち込んでいた。


 配信も終わったし、ちょっと買い物に行くか。洗剤もないし、晩飯の材料だって家にはないからな。

 俺は財布を持って外に出た。


 ***


 次の日、金髪ダルダルTシャツ女こと大鰭夜惟は少しばかり真面目な雰囲気でゲーミングチェアに腰掛けていた。

 わざとらしく咳ばらいをし、口を開いた。



『あー、お前らちょっと聞け。先日あたしの家の鍵穴がボンドで埋められるという事件が起こった』


[知ってる]

[またやられたんか?]


『あの報告配信の後、ポストにこれが入っていた』

 人差し指と中指の間に挟まってたのは、一枚の野口英世。


『こいつと一緒にメモが入っていた。「修理費」だとよ』

 ぐしゃりと握りつぶし、ダァンッと机に拳を叩きつける。カメラに頭突きするような勢いで前かがみになり、大きな声で吠え始める。


『千円で足りるわけねえだろ馬鹿が! こちとら数万かかったんだぞ! 全額よこせや! つーか来るんじゃねえよ!』


[来いと言ったのお前定期]

[リスナーと配信者は似るよな]

[大声出すな、近所迷惑だろ]


 ちなみに夜惟の隣人カップルは少し前に引っ越している。

 そりゃそうだ。誰も深夜まで続く酔っ払い女の下品な話など聞きたかないだろう。


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