第3話「倫理はどこかに捨ててきた」
『やっぱアルコールって正義だわ~気持ちよくなれるもんなぁ。ぎゃははははは! はい、もう一杯! もう一杯!』
[良い飲みっぷり]
[肝臓脂肪RTA始まるな]
[飲んで飲んで飲んで!]
酒を煽るコメント欄と、かっくらう配信者。
ゴミ溜めのような治安の飲み会雰囲気をぶち壊したのは女性特有の甘い声……いわゆる喘ぎ声。
最初は酔っ払いの聞き間違えとか、誤ってAVを流してるとかかと思ったが、どうやらそうではないっぽい。
徐々に声のボリュームが大きくなっているし、作り物特有のわざとらしさがなかった。
大鰭夜惟のものでないことは明白だ、だって煙草で口が塞がってるのだから。くぐもっていて聞こえにくいことから、声の主は隣の部屋にいるのだろう。
壁が薄いのか配信事情をお構いなしにヒートアップしているのが筒抜けだ。
その声は無論、この干物女にも聞こえている。
バァン!
台パン音が響いたかと思えば「チッ!」と大きな舌打ちを零す。
『ああ、もううるっせえなぁ! 隣のカップルが交尾してやがる、あたしをBANさせる気か、クソがよぉ!』
呂律の回らない声で叫ぶと、ゲーミングチェアをくるりと回して後ろを向く。あろうことか、手に持っていたカップ酒を壁に向かって叩きつけた。
ガッシャァァン!
音を立てて、ガラス破片が散らばる。
一瞬声は止んだのだが……クライマックスが近かったのだろう。すぐに再開する声が聞こえてきた。
『盛ってんじゃねえよ、年中発情期がよお!』
アル中女が喚き散らかす。
ゲーミングチェアから重い腰を上げ、壁の一部に照準を合わせ、五メートルにも満たなそうな部屋の中で全力ダッシュ!
躊躇う様子を一切見せず、勢いのままに壁に突っ込んだ。
ガァンッ!
凄まじい音が響く。さすがに隣の住民もビビったのか、しいんと静まり返った。
まごうことなき放送事故、皆そう思っただろう……ただ一人を除いて。
『ぎゃははは! 静かになったぜ、あたしの勝ち~!』
くるりと振り向いて、配信画面に近づいてくる。
額からダラダラと血を流しながら勝ち誇った笑顔を浮かべる姿はホラー映画さながら。
脳内麻薬が出まくっているのかアルコールで痛覚が仕事を放棄しているのか不明だが、痛がる素振りを一切見せることなくⅤサインを見せつける。
『お前らぁ、今日もビクトリィ~!』
なんだこいつ、頭がおかしいだろ。
見るからにヤベー奴だと分かるが、俺はチャンネル登録ボタンを押していた。
こうして俺は見る麻薬、大鰭夜惟リスナー・ヨゴレ者の一員となった。
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